華やかなステージにようこそ｜リアクション

華やかなステージにようこそ

　ステージから離れたところに三折部朝衣は立っていた。横目で進み具合を見て再びドアに熱心な目を向けた。
　内面の苛立ちを右脚が雄弁に語って貧乏揺すりを始める。コートのポケットからスマートフォンを取り出して画面に時刻を表示させた。不機嫌な顔で受け止めて電話を掛けようと指を伸ばす。
　止めるようにドアが開いた。
「遅くなってごめん」
　困ったような笑みで住沢遥人は言った。
「心配したよ。時間に間に合わなくなるかもって思ったわ」
　朝衣は安堵の溜息を吐いた。
　小刻みに頭を下げながら遥人は店内に目をやる。
「ここはガールズバーだよね？　水着が制服なのかな」
「言いたいことはわかるよ。呼び出された理由だよね。もうすぐ、わかるわ」
「そう、なんだ」
「遥人の席を用意してあるから楽しんでいってね」
　朝衣は遥人を席に案内した。座る姿を目にすると足早に離れた。

　間もなくして朝衣は波模様のビキニでステージに上がった。送られる声に軽く手を振って返した。中央に立つと観客席の一点に目を向ける。遥人は驚いた顔で固まっていた。声にならない声で何かを語り掛けてきた。
　夏衣は上々の笑みを浮かべてウインクを送る。その行動が観客の勘違いを引き起こし、瞬く間に熱い声援に包まれた。
　開始前、観客は口を閉じる。ステージに熱心な視線だけを向けた。
　夏衣は静止して曲が流れるのを待つ。
　前奏が始まると遥人の表情が変わった。目にした夏衣は踊りながら微笑む。二人がよく聴くオーストラリアのロックバンドの一曲であった。
　曲調に合わせて軽やかに舞う。サーフィンで鍛えられた身体は驚きの跳躍で観客を魅了した。ステージ上を飛び回る間に手拍子が起こる。
　夏衣はポールを片手で握ると後ろへ回った。動きが止まらない間に脚を絡めて右腕を垂直に上げる。自由になる左腕は曲に合わせて切なげに波打たせた。
　回る速度が落ちると片脚で床を蹴って再び力を得た。同じような回転を続けるのかと思いきや、徐々に身体を丸くする。膝を抱え込むような姿勢で回った。
　曲が終わると同時に座った状態でぴたりと止まる。割れんばかりの拍手を一身に受けると卵から孵化したように立ち上がる。前に進み出て会心の笑みを見せた。
　そのタイミングで店内が暗くなる。ステージにいる夏衣にスポットライトが当てられた。続いて観客席にいた遥人を照らし出す。
「遥人……これからもよろしくね！」
「こ、こちらこそ」
　初々しい二人を包み込むような拍手が沸き起こった。

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