２つの世界の狭間で｜リアクション

２つの世界の狭間で

◇異世界の彼

　寝子高２年の稲積柚春は、放課後、課題をするために自主的に居残りをしていた。
　けれど、つい物思いにふけってしまう。
（異世界でウォルターさんと冒険している夢を見た。夢の中のウォルターさんはワイルドセクシーで大胆な一面もあってドキドキした……）
　思うのは、大好きなウォルター・B先生のこと。
（どうやらウォルターさんも同じ夢を見たようなんだけど、あれはお互いに異世界に行っていたのかな？　夢は現実の情報整理っていうし、関係があるのかも）

「あ、もう下校時間だ」
　いつの間にか結構時間が経ってしまっていた。
「もう帰ろう……」
　柚春は教室を出て人通りの少ない廊下を歩きだす。
「あっ、ウォルターさん！」
　思いがけずウォルター先生と出くわした。
「稲積？　居残りかい？」
「ええ、片付けたい課題があったので」
　お喋りしていたら、夕暮れの窓に何か映っているのに気づいた。
「え？　ウォルターさん、あれ見て！」
　それは自分とウォルターの姿。
　しかし、服装が違う。制服でもスーツでもなく、現代離れした……
（これ、もしかして夢の中の！？）
　その思いを裏付けるように、窓に映ったウォルターは柚春の内腿から毒を吸い出し始めた。
　柚春は赤くなり固まってしまう。
（……このウォルターさんは躊躇いなく二度も僕の内腿にキスをしたわけだけど、実際はそういう対象に見られてるのかな？　それとも夢の僕が遊ばれてる……）
　さらに柚春の思いは飛躍する。
（……遊ばれてるのは夢の中だけ？）

　その時、窓の中の柚春がこちらを見て、目が合った。
「あれ、私……？」
　柚春は思わず、きょとんとした様子の自分に話しかけてしまう。
「大丈夫なの？　誠実な人？　騙されてない？」
「稲積？」
　こっちのウォルターさんは呆然としているようだが、柚春の言葉は止まらない。
「こっちのウォルターさんは教師だから『先生』の顔でかわしちゃうんだ、ずるいでしょ」
　窓の中のウォルターも気づいたようで、こちらにウィンクしてきた。
「それはずるいよねぇ」
　他人事のように言う涼しい顔がなんとも憎らしい。
「そっちのウォルターさん！　誰にでもしないでね？」
「誰にでもなんてしないよぉ」
「なら、いいんだけど」

　柚春はふと思いついたことを口にした。
「それから……男の人が喜ぶこと教えて欲しいんだけど」
　照れ顔の柚春に、二人のウォルターが同時に目を丸くした。
「稲積？！　何聞いてるんだ！」
　慌てた様子のこちらのウォルター。
「これは積極的だねぇ」
　向こうのウォルターは面白そうに笑う。　

　ウォルターの反応にぽかんとする柚春。
「え？　味付けや服装の好みがわかるかなって、何かおかしかった？」
「……」
　絶句するウォルターを見て、窓の向こうのウォルターが吹き出した。
「これは教え甲斐がありそうだねぇ……うん、君はそのままでいいと思うよぉ」
「そのままって……」
　隣のウォルターさんの顔を見て、それからもう一度窓の方を見ると。
　
「あれ……」
　もう異世界の二人は消えて、ただの窓に二人が映っているばかりだった。

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