２つの世界の狭間で｜リアクション

２つの世界の狭間で

◇水面の未来

　寝子高２年生の水上桜は、寝子島スポーツセンターの温水プールで水泳部の自主練をしていた。
　その日は人が少なくすいていた。
　泳いだ後自ら上がり、プールサイドからふと水面を見たら……
（えっ？　何か映ってる？）
　桜は目を疑ってプールを二度見した。
　静かな水面に映っているのは、なんとスーツを着た自分の姿だった。
（また神魂の仕業？）

　他の人はこの状況に気づいていないようだ。
　とりあえず水面に映る景色を眺めることにする。どうも場所は寝子高の教室のようだ。
（なんだか大人っぽい……教壇に立ってる？　この内容、こないだ授業でやった……）
　黒板に書いている内容からすると現代国語の授業のようだ。
　しかも声まで聞こえてきた。
「水上先生～、先生がじゃまで黒板の字が見えません！」
　子供っぽいからかいの言葉に、水上先生は苦笑しつつ答えた。
「当たり前でしょ。私は透明人間じゃないもの。でも声をあげてくれてよかったわ。牛瀬君、こないだの授業は静かだと思ったら寝ていたものね」
　どっと笑い声が起こる。
「さあ、これで黒板が見えるわね」
　落ち着いた様子で着実に授業を進めていく。
「水上先生の授業、わかりやすいよね」
　そんな生徒の囁き声も聞こえてきた。

　キーンコーンカーンコーン。
　一日の授業が終わると、水上先生は職員室で回収した宿題の採点を始めたが。
「先生、もう練習の時間です」
　ほどなくやってきた生徒がそう告げると。
「いっけない、忘れてた！」
　大慌てでバッグを抱えて職員室を飛び出し、向かう先は……なじみ深い屋外プールだった。
　更衣室へ飛び込み、競泳水着に着替える。
「ごめんごめーん！」
　夏の太陽が照り付ける中、すでに水着姿の水泳部員たちが待っていた。
　競泳水着の上にＴシャツを着て、首にはホイッスルとストップウォッチを下げ、手にはファイルを抱えて水泳部員の前に立つ。
「さあ、準備運動を始めるわよ」
　それが済んだらいくつかの指示を出したうえで、練習開始だ。
　一人一人の習熟具合などを見て、『この子は次の練習試合に出そうかな』『この子はもう少し筋力トレーニングに注力したほうがいいかも』といったことをファイルのノートに書き込む。
　そしておもむろにＴシャツを脱ぐと、プールの中へ入って指導を始めた。
「腰が下がってるわね、体の力を抜いてリラックスして。こんな感じ」
　自ら泳ぎ方の模範を示してみせる。
（未来の私（？）がんばってるなあ……）
　水面に映る自分の姿を見て、現在の桜は感心するのだった。

　ようやく練習終了。
　だが一人の女生徒が水上先生の元にやってきた。
「あら、どうしたの？」
「先生、実は相談したいことが……」
（なんだろう？）
　桜が身を織り出したところで、不意に水面が乱れた。

「あっ……」
　そのまま水上先生の姿も声もかき消えて、ただのプールの水があるばかりだった。