２つの世界の狭間で｜リアクション

２つの世界の狭間で

◇万里と千里

　木天蓼大学文学部学生の桧垣万里は、ショーウィンドウに映るその人をまじまじと見つめた。
　現実で会うことのできなかった双子の兄千里は、優しい眼差しで万里を見つめている。
（こんなところで会うなんて……。とりあえず何か話してみようかしら）
　なんて声をかけようか。

（千里だよね？）
　そう言いかけて、やめた。
　過去に何度か邂逅しているし、今更だ。
　千里じゃないなら、私はショーウィンドウに話しかけるおかしな人だ。
　いや、千里であっても傍目にはおかしな人になってしまうけど……。
　それでも万里は、ショーウィンドウに映るその人に、声をかけた。
「えっと、久しぶり……？」
　なんて。あはは。
「久しぶり」
　千里が答えを返してくれた。
　自分より低い男性の声。
　幸いというか不思議というべきか、周囲を歩いている人たちは誰も気に留める様子がない。
　万里は微笑んでもう一度声をかける。
「あなたとこんなところで逢えるなんて思ってなかった。元気だった？」
　うっかり聞いてしまって、相手がもう死んでいることに気づく。
「……なんて貴方に聞くのは、おかしな話だよね」
　千里は肩をすくめて尋ね返す。
「君は元気そうだね。今日はどうしたの？」
「私は見ての通りだよ。今日は買い物。課題の資料と、あと色々ね」
「部屋の片づけは？」
「……って、なんで私の部屋が散らかってること知ってるかなぁ」
　驚く万里に、千里は笑う。
「いつでも見てるから」
　見ているどころか、ろっこんで万里に憑依することもあるのだが、万里はそのことを知らない。
「なによそれ。いくらお兄ちゃんでも、プライバシーの侵害だわ」
　万里は膨れるが。
「兄」と呼ばれたからか、千里はとても嬉しそうに笑った。
「ごめん、気をつけるよ」
　そう言う千里の顔に、反省の色はまったくないのだが。
　千里の姿がさっきより薄れていることに万里は気づいた。

「え、どうしたの？　なんだか薄くなってる？」
「どうやら、今日は時間切れかな」
「そうなの？　また、こうやって話をしようね」
「ああ」
　やがてショーウィンドウには万里の姿だけが残った。

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