２つの世界の狭間で｜リアクション

２つの世界の狭間で

◇書店の窓に映る二人

　寝子高３年の綾辻綾花は、休日にしまりす書店に新刊を買いに出かけた。
「珪先生！」
「綾辻さん。偶然だね」
　ばったり会ったのは憧れの早川珪先生。
（今日は良い日です）
　担任であり司書教諭でもある珪先生と、図書委員である綾花は学校で毎日顔を合わせてはいるのだが。
　休日に偶然二人きりで会えるのは、格別の喜びだった。
「珪先生、本購入しました？」
「今選んでいるところだよ」
　この書店でアルバイトをしている綾花は、当然店のイベントにも詳しい。
「今フェアをしてて、本を購入すると栞が１０種類ぐらいから選べるんです」
「へえ、そうなんだ」
「もちろん私はにゃんこの栞をもらうつもりです」
「そうだね、僕は何にしようかな」
　
　そんな話をして、珪先生の動きに合わせて綾花がふと窓を見ると。
（映るのは私……じゃない？　あれ？　誰？）
　こちらを見ていた珪先生と顔を見合わせる。
（可愛くて綺麗な女性……珪先生も、気になってる？）
「綾辻さん？　あれって……」
「えっ……」
（よく見ると私に似てる？）
　髪が伸び一つに結んだ２０代ぐらいの女性の顔立ちは、綾花を少し大人にしたようで。
　その隣にいるのは……
「珪先生！」
　見間違えるはずはない。
　珪先生も少し歳を重ねて、カッコ良さと大人の色気が増していた。
　二人はなんだか親しそうにしていて、腕を組んで楽しそうに話している。
（これは未来？）
　口を押えてその姿を見ていた綾花は、窓に映る珪先生の指に光るものを見つけた。
（薬指に指輪……？　私の指にも！）
　二人の薬指に光るのは、同じ指輪のようだった。
（ということは……雰囲気からすると新婚さん？）
　未来の２人はすごく幸せそうで、綾花は胸が熱くなった。

（え、これ先生も見て……？）
　そっと珪先生のほうを見上げると、目が合ってしまい。
　綾花は顔が熱くなるのを感じてあたふたした。
「ふ、不思議ですね」
「そうだね……」
　なんだか珪先生も少し照れているみたいに見えた。

（未来はどうなるのか分からないけど）
　必ずこのとおりになる、というほど甘くはないのだろう。
　けれど憧れは止められない。
「珪先生は今も未来もカッコいいのは分かりました」
「……綾辻さんは、すごく大人に見えたよ」　
　目標とする未来に向けて頑張りたい。
　綾花は思わず拳を握りしめた。