２つの世界の狭間で｜リアクション

２つの世界の狭間で

◇動き出す人形たち

　八神修は、七夜あおいと学校帰りの道で楽しく雑談していた。
「この前のフルーツ狩りは楽しかったな」
「うん、とっても美味しかったし、子ヤギちゃんも可愛かったね」
　車道側を歩いている修はあおいのほうを向いているので、自然と店のウィンドウにも目が行くことになる。
　もちろん修はあおいに視線を向けているので、よほどのことがない限りウィンドウの中が気になることはなかったのだが。

（……ん？）
　ふと、修は小物店のウインドウに反応した。
　ウインドウの景色が動いた気がする。
　飾られているのは、小さな動物たちの人形、ゴルバニアファミリーだった。
（見間違いか？　いや……）　
「どうしたの、修君？」
　修の視線に気づいたあおいも、ウィンドウに目を向ける。
「あ、ゴルバニアファミリー！　可愛い！　あれ？」　
　あおいもこの不思議に気づいた。
「確かに動いている……可愛すぎだろ」
　修は今度こそ確信した。
　動画ではない。
　人形たちが生きているように動いているのだ。
「すごい……」
「なんだかおとぎ話みたいだ。心がぽかぽかするな」
　そのままでも可愛い小さな動物たちが動いている様子に、二人は足を止めて見入った。

「ウサギ、リス、ネズミ……色んな動物の子がいる。広場かな」　
「あっ、修君、聞いて」
「ああ、声も聞こえてくるな」
　小さい子達が遊具をよじのぼろうとするのを大きい子が手を貸して。
　小さい子達は歓声を上げて滑り台を滑っていく。
「見ているだけで癒されるな」
「そうだね。この前の保育園みたい」
「俺も同じことを思ってた」
　あおいの言葉に、修は嬉しそうに頷く。
「俺はあんまり子供と接する経験がなくてさ。この前の保育園での体験も結構緊張してた」
「そうなの？　そんな風には見えなかったよ」
「ちゃんと出来てた？」
「うん」
「なら良かった。あおいは安心感あったよ。適わないなあと思った。コツがあるのかい？」
「私はだって、弟も妹もいるもの。普段通りにしてるだけ」
　そう言いつつ、あおいは少し考える表情になる。
「コツって言ったら、みんな平等になるようにすることかな？　誰か一人だけほめたりすると、他の子が悔しがるんだよね。その時言ってくれる子もいるけど、大人しい子は黙って不満を溜めちゃうから」
「なるほど、さすがだな」
　順番待ちの園児を抱え上げてくるくるまわっているあおいの姿が思い出された。
　なんの義務もないのに、自分の負担も顧みずサービスしてしまうあおい。
　本当に子供たちを大切にしているのだろう。

「修君は、弟や妹がいたらどうしてたかな」
　あおいの何気ない言葉に、ふっと亡き母の姿が浮かんだ。
　そして今の母の顔が。
　兄弟が生きていれば、自分は八神修ではなかったろう。
　そんな思いを振り払い、修は笑顔で答える。
「弟妹がいたら？　一緒に遊びたいな。お菓子作りもいいな」
「いいね」
「俺が小さい時にしてほしかった事かも。色々一緒にさ……沢山愛情注ぎたい」
「修君……」
　あおいが修を見つめる。
「家族とか好きな人とは、一緒に幸せになっていきたいし」
　微笑する修に、あおいは笑顔を向けた。
「うん。修君ならきっと幸せになれるよ」
　その言葉に、ドキドキするのを感じながら修は言葉を探した。
（それは……君が俺と一緒に幸せになってくれるということなのか）
　

「あ、止まっちゃった……」
　あおいの言葉に、修は思考を遮られた。
　ウィンドウの中にゴルバニアファミリーは、何事もなかったかのように動きを止めていた。

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