No Rain, No Rainbow｜リアクション

No Rain, No Rainbow

「こら、今はお客さんが来てるから……」
　奥さんの困った声に視線を向ければ、勝手口のほうから小さなタオルを被った猫が向かってきていた。途中で頭を振り払って身軽になると、綾花たちをみて甘えるような声を出す。
「にゃんこ！　ふふっ、タオルは嫌いだったのかな？」
　猫探しの予定だから、おやつにと煮干しも持ってきている。餌を与えても問題ないかと確認をとれば、できるだけ勝手口の近くでねということだったので、綾花は煮干しをチラつかせて勝手口へ誘導する。
　開いた戸の向こうには、タオルの順番待ちのようにお行儀良く座っている子も、少し離れた場所で眠っているような子も、たくさんの猫がいた。
「わあ……！　雨宿りにいっぱい来るんですね」
「晴れた日は気まぐれにしか顔を出さないのにねぇ。ちゃっかりした子たちばかりだよ」
　呆れたように笑ってみせるけど、勝手口には猫用と思しきタオルやおやつも用意されていて、猫たちの憩いの場になっていることは一目でわかる。
　綾花は煮干しをあげて、少しだけ撫でさせてもらう。
「うちに来るにゃんこもそうです。きっと雨宿りの場所だと思っているんでしょうね」
　楽しそうに話す綾花と猫を驚かさないように、そっと珪も様子を見に来たけれど、目に付く範囲には綾花の探している猫はいないようだ。
　珪にはざっくりとした模様の違いしかわからないが、綾花は綿密な猫メモをとっているだけあって、座り方の癖や鳴き声なんかも違うとすぐに猫たちの見分けがついたようで、少し残念そうに首を振る。
「雨が降ったら窓の外にちょこんと座って、にゃーって合図をくれるのに……乾かしてもおやつをあげても、雨がやみそうになると帰っちゃうんです。でも、最近来なくてどうしたのかなって」
　確かに気まぐれな猫とはいえ、定期的に顔を合わせていたなら心配にもなるだろう。どこかの家猫が、わざわざ雨の日に散歩するとも思えないし、野良であるならなおのこと天気の悪い日は心配になってしまう。
「でも、寮によく来てたから、もしかしたら九夜山が行動範囲なのかもって」
「そうだね、猫の行動範囲は思っている以上に広いから……気ままに雨宿りしているんだろうね」
「きっとそうですよね！　……そうだ、珪先生も。おやつあげてみてください、かわいいですよ」
　煮干しの袋を差し出して、集まった中でも大人しめの子を教えてあげる。
　二人は、雨が再び小雨になるまで猫たちと大いに触れあった。