雨雲が居座る季節になった。
猫鳴館の自室でタウン誌を眺めていた
綾辻 綾花は、明日も雨だろうかとぼんやり思い、星空を隠す雨雲を見やる。彼はどんな気持ちでこの季節を過ごしているだろうか。
冷たく長い秋の雨は、特別雨が嫌いでなくとも憂鬱にさせる。
例えば洗濯物が乾きにくくなってしまうとか、布団だってなかなか干せないとか。
片手が傘で塞がると買い物も億劫だし、濡れて滑りやすくなった床も歩きにくい。
楽しいことばかりではないと知っている。けれど、楽しいことも知っている。
(それは私が、雨の日だって好きだからだけど……)
台風や激しい雷雨には困ってしまうけれど、優しい雨音が耳心地よくて読書が捗ったり、埃が舞いにくくて掃除がしやすかったりもするし、いつもは遠目にしか見られない警戒心の強い野良猫だって、雨宿りしている時はもう少し近寄っても大丈夫だったりする。
雨上がりだってそうだ。いつもより空が綺麗に見えたり、水たまりに映り込んだ景色を覗き込んで、時に怪獣のようにそれを蹴っ飛ばしてみたりして。雨が降らなければできないことだって、たくさんあるのに。
――僕は少し……苦手かな。時折、思い出してしまうから。
あの時は、はっきりと目元が見えていたわけではなくて。
雨に濡れて張り付いた髪と、沈黙をかき消す雨音に全てを推し量ることができずにいたけれど。
気になって様子を見ていれば、確かに雨の日の
早川 珪は僅かな陰りを見せることがあった。
(何があったのか……言ったら楽になるんじゃなくて、思い出して苦しいのかもしれない)
我を通して聞くようなことではない。彼が言ってもいいと思えるまで待つべきだとわかっている。
それでも、寝子島には雨が降る。雨季の少ない国へ連れて行ってあげるわけにもいかないなら、少しでも雨を楽しんで欲しい。
苦しい思い出のままでいてほしくない、というのは詳細を知らない他人だから思えるのかもしれない。
その第三者の立ち位置にいるのは寂しいようで、利点でもあった。
(知らないから……だから、できることがあるはず!)
あれもこれもと考えたところで、足を止めるだけで何も変えられないなら、やってみればいい。
今の綾花が望むことは、彼が思い出したくないことを引きずり出すことでも、その苦しみを分かち合うことでもない。自分が楽しいと思うことを伝えたいのだから。
上を望めばきりがないから、大切なことをひとつだけ。
(例えその日限りでも、珪先生に雨の日も楽しいって思って欲しい)
そうと決まれば、綾花はタウン誌と猫メモを見比べて行き先を絞り込む。
素敵な雨の日を過ごすんだと、楽しみにプランをたてていった。
「今日も雨ですね……珪先生は、髪の毛がまとまらないとか困ることありませんか?」
降ったりやんだり気分屋な雨は暫く続くらしい。
気を遣って雨の話題を避けるのも不自然だから、口にしてしまうけれど。やっぱり珪は晴れやかな顔を見せることはなくて、ぼんやり図書室の窓の外を眺めている。
「雨の日は窓を少し開けていても、猫たちが遊びに来てくれなくて寂しいです。けど、実はレアな猫に会える日で……だから、一緒に探しに行きませんか?」
作戦決行するなら、今しか無いと思った。
「雨の日に、猫探し?」
「あっ、レインコートを着て茂みを探すとかじゃないですよ? 雨の日に見かけることが多い子で」
それから、綺麗な景色が見えるところがあって。
雨だから楽しめることがあって。
「こんなに長い雨ですから、たまの晴れ間を待つより、雨の日も楽しんでしまいましょう!」
いいことだっていっぱいあるんだと笑う綾花が、嘘を言っているとは思わない。
ただ心の整理ができずに雨の日が苦手になってしまった珪にとって、二つ返事で受けるのは難しかった。
楽しんでいい物なのかと、自問自答する。
本当は思い出したくない。でも忘れてはいけないんじゃないかと、降り続けた雨。
「……そうだね、雨が止むのを待っていても、いつになるかわからないし」
降り止まないかもしれない。
それでも、視点を変えれば違う物に見えるかもしれない。
必要だったなんて思いたくはないけれど――長い雨の先に虹が見えるかと期待してしまうんだ。
リクエストありがとうございます、浅野悠希です。
こちらは、綾辻 綾花さんのプライベートが満載なシナリオです。
概要
■日時
9月の秋雨が続く頃。
雨が降った休日に、お昼頃から待ち合わせです。
待ち合わせの時間帯には小雨で、夜には晴れ予報が出ています。
秋の天気は変わりやすいので、お気をつけてお過ごしください。
■おすすめスポット
<九夜山ハイキングロード>
霧雨で濡れる九夜山はなんだか神秘的。
森の香りが一層強まって、リフレッシュになりそうです。
小道の所々には、小さな秋の気配もあるでしょう。探してみるのも楽しそうです。
普段は穏やかな小川も、少し水流が強まった姿を見せてくれます。
雨とは違った水音や、海と違った水しぶきを楽しめそうです。
あまり近づくと危険ですが、離れて楽しむ分には大丈夫そうです。
足元には十分に気をつけてお進みください。
<茶屋>
途中で歩き疲れてしまったり、酷い雨に見舞われたり……お困りのことがあってもなくても小休憩に。
藁葺き屋根の小さな茶屋が、優しくおもてなししてくれます。
口数の少ない主人が厳選した茶葉と、甘い物にはちょっと手厳しい奥様が選んだ茶菓子。
おいしいのはもちろんですが、季節を感じ、ゆったりするのにも向いています。
お店には餌をもらいに、雨宿りにと気まぐれな猫が来るようです。
店内を泥だらけにしないよう、彼らを招き入れる際は注意しましょう。
<九夜山頂上展望台>
雨の日には雲で覆われてしまう寝子島。高いところに登っても、そう遠くまで見えません。
こんな日には、誰も利用していなくて貸切間違いなし。隠れた逢瀬にもぴったりです。
ここで雨上がりに遭遇できれば、きっと素敵な景色が見られるでしょう。
■できること
オススメのデートスポットを提示させていただきましたが、あくまでオススメです。
綾辻さんが行きたいなと思うところがあれば、変更して頂いて構いません。
「場所はどこでもいいけど、これだけはしたい!」
なんてご希望でも大丈夫です。
素敵な雨の日になるよう、自由に行動して頂ければと思います。
NPC
今回登場とお伺いしてますのは、NPC:早川 珪
雨が苦手なことも、捜し物のことも、少しずつ綾辻さんと共有することが増えてきました。
そんな綾辻さんが教えてくれる楽しい雨を、知りたいとは思うけれど……。
心の内には色々ありますが、誘ってくれた綾辻さんの笑顔を信じてみたいと思っています。
参照シナリオについて ※独自ルール※
他のシナリオ、コミュニティなどの描写や設定を参照することは、原則的には採用されにくいとなっています。事前にお知らせ頂いている物以外は、通常シナリオと同じように記載をお願いします!
・事実を確認するだけで良く、深い読み込みがいらないもの
・どうしても前提にしてもらわないと困るもの
これらに関しましては、できる限り参考にしますので『URLの一部』をお知らせ下さい。
【例】シナリオID3242の9ページと、トピックID2853の181番目の書き込みを参照依頼する。
- T/2853/181の結果を受けてS/3242?p=9で●●を成功しました。●●の情報はある前提の行動です。 -
など、シナリオを『S』としたり、トピックを『T』としたり短縮表記で大丈夫です。
IDから該当ページまでのURLは省略せず、そのまま提示して下さい。
・必須じゃないけど知っておいて欲しいなという事柄については、
余力があれば確認させて頂きますので、ご了承の上で記載お願いします。
※浅野の独自ルールのため、こちらは他MSへ対応を迫る行為はお控え下さい。
それでは、よい1日をお過ごし下さいね!