BABY STRANGE｜リアクション

BABY STRANGE

　ふたたびバックヤードは、星太郎と九鬼姫のふたりきりとなる。
　カーテン越しに聞こえるBGMが、ゆったりしたスローバラードから派手なユーロビートになったのがわかった。これからあとひと盛り上がり、踊って楽しもうというのだろう。古くさい手法かもしれないが、いまなお有効なやりかたである。
　されど音楽のBPMが早めになっても、落ち着いている自分を星太郎は感じていた。椅子にもどる。
「ごめんね、取り乱したりして」

　九鬼姫の両手を握りたかったがこらえた。だが星太郎の手を、握ったのは九鬼姫のほうだった。
「いや、わらわこそ悪かった。大きな声を出してしもうて」
　見つめる星太郎と見つめ返す九鬼姫、高校の演劇祭の『ロミオとジュリエット』のような光景であったろう。けれど高校の演劇祭同様、純粋なのもまた事実だった。
「オジサンは怖がりなのよ。……できるだけのことをして、もがいてあがいて、とにかく期限を先にしたいの、延ばしたいの、順番を逆にしたくないの」
「……本当のことを言おうか」
　九鬼姫が言った。
「わらわも、怖いよ。私は……わらわは、元の時代になど戻りたくない。いつわりの世界であろうと、ここで、このプロムナードで、みんなと一緒にいたい。星太郎に想われていたい」
「九鬼姫ちゃん、それって……！」
「結論を急ぐな。運命は運命、受け入れるつもりではあるが」
　九鬼姫は首をふった。
「あらがいたいとも想っておるのじゃ。とりわけ今日、その思いを強くしたわ。こんなわらわではあるが、好きだと言ってくれる酔狂者がおるかぎりはな……」
「アタシのことよね……？」
「いちいち確認するな、面映ゆいじゃろうが」
「でもアタシ、『重い』わよねえ？」
「またそれを言う……悪かったわい、重いとか言って」
　でもな、と九鬼姫は身を起こして言うのである。
「軽いか重いかで言えば、わらわは重いほうがずっと好みじゃ。じゃから星太郎、いらん遠慮はせずどわらわにんどん重みをかけるがよい！」
　ええ、と星太郎は明るい声で言うのだ。
「重いかもしれないけど、できるだけアナタを笑わせたいとも思ってるわ」

　まみ子はソファに肘をついて、『まさぴょん』こと真遠に視線を向ける。
「……気になる？」
　九鬼姫たちのこと、という部分は省略していた。
「まあな。具体的には容態だな」
「大丈夫よ、なんかあったら知らせてくるから」
　そういえばまみ子は――真遠は思った。
　まみ子は、九鬼姫の病状を知らないはずだ。
　いや、察しのいい彼女のことだ、薄々感づいてはいるだろう。いちいち口に出さないだけだ。
「作ろうか？　お代わり」
　まみ子は真遠のグラスに目を向けた。中学生のような容貌ながら、このときのまみ子は実年齢に近い口調だった。

　たしかにこの日、九鬼姫は早退して穏やかにすごした。
　翌日も病院に行った。
　九鬼姫が倒れたのは、さらにその翌日のことである。