BABY STRANGE｜リアクション

BABY STRANGE

　ありがとうございましたっ、と、高校野球を戦った選手のように、七瀬は皆に頭を下げた。
「今日は、いえ、今日も楽しかったです！　また来ますね」
　おー、また来てねーと校長が扇子をもった手をふる。
「って、また返し忘れの本を持ってくるんじゃないだろうねぇ」
　ウォルターが苦笑気味に告げると、
「………えー、本はちゃんと全部返却したはずです？……たぶん？」
　なる不穏な（というか本の行方をあまり気にしていない）発言とともに七瀬は学校を出て行ったのだった。
　本当はあとすこしだけ――門を出る前に、七瀬は校舎をふりかえった。
　あとすこしだけいたかった。ウォルター先生と言葉を交わしたかった。
　でも――。
　これでいいんだ、と七瀬は寝子島高校の外に出る。
　
　時子と尚輝も、肩を揃えて会議室から離れる。
「またゲームするときは教えてくださいね」
「はは……今度は御巫さんもプレイヤーとして参加してください」
　白衣の教師と制服の生徒、彼らの関係もあと半年少々だ。あと何回、この関係のままでゲームができるだろう。
　新しい春が来たあとは、どうなっているだろう。

　間を置かず義弘と校長が出ていって、気がつけば空き教室は、柚春とウォルターのふたりだけになっていた。
「ウォルター先生っ」
　言うなり柚春は、ウォルターの座る席に乗った。もちろん一人用の学校机だ。シェアするにはむかない。体をくっつけ合う格好となる。

「おいおい、どうした急に？」
　言いながらもウォルターは特に拒むことはせず、ただほんの少し、座り心地のいいように体の位置を動かした。
「今日のお礼を言いたくて」
「はて、僕今日、何か礼を言われるようなことしたっけ？」
「一緒に遊んでくれたじゃないですか」
「それはそうだけど、稲積にWelcomeと言ったのは校長先生だよねぇ」
「じゃあ先生が、校長先生の立場だったらどう言いましたか？」
「ふぅむ……」
　ウォルターはあごに手をあてた。眉間に力をこめ、無言で壁を見つめている。　
　そんなに真剣に考えなくてもいいのに――稲積は思う。
　でもこんなとき、つい真剣になってしまうところが彼、ウォルター先生……ウォルターさん、私のワッツ……らしいな。
　やがて、ふっとまなざしをやわらげたウォルターは、この日一番、優しい顔をして言ったのである。
「……やっぱり、Welcomeって言うと思うな」

　
　――『BABY STRANGE』　了　

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あとがき

担当マスター：桂木京介
ファンレターはマスターページから！

　ご参加ありがとうございました。桂木京介です。

　精も根も尽き果てると申しますか、今回は非常に難産のリアクションとなりました。
　現在もうクタクタで、べったりと倒れこみたい衝動と戦っています。
　今回も皆様の情熱のこもったアクションのおかげで、なんとか最後までたどり着くことができました。どの方も『奇妙』というキーワードを踏まえた内容であったと思います。ひとくちに『STRANGE』といっても、あらわれかたは様々ですね。
　
　いつも書いていますが、ご意見ご感想などお待ち申し上げております。反応がないのが一番つらいのです。
　それではまた、新たなシナリオでお目にかかるのを楽しみにしています。
　桂木京介でした。

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