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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
満ちるのは月か心か、それとも？
熱心なのか、緩やかに仕事をこなしているのか――町長が退勤したのは定時を少し過ぎていて、三折部 朝衣が退勤の準備ができた頃には午後７時前。もしかしたら、お月見会がいい頃合いになるのを見計らっていた、なんてこともありそうだけれど。これくらいの時間ならば想定の範囲だ。
待ち合わせ場所の星ヶ丘駅前へ向かう信号待ちで、手早く住沢 遥人へ向かっている所だとメッセージを送るのも慣れてきた。勤務時間が町長に合わせて変動するのは秘書としてツラいところだが、仕事自体はやりがいもある。
（それに、これからは帰りが遅くなっても遥人と会えるし）
来月には引っ越し準備も整って、同棲が始まる。こうして仕事終わりの合間を縫わなくても会えるのは、素直に嬉しい。けれどどうしてか、そういう恋人っぽさが少なくなるのかな、と寂しく思ったりもして。
「朝衣、お疲れ様」
こんな風に優しく迎えてくれたり、彼が仕事の時は自分が迎えることが当たり前になるのも、やっぱり楽しみではあるのだけれど。
贅沢な悩みだ。朝衣は苦笑してしまったのを誤魔化すように「ただいま」と冗談っぽく笑ってみせた。
お月見を楽しむためのバスに天井はなく、爽快な風が吹いている。都内の電波塔や桜並木なんかを楽しむのにも向いているオープンバスは、空調のいらないこの時期だから良いのかも知れない。
少しの肌寒さなら寄り添って暖をとるのもいいけれど、そのうち。朝衣は膝に乗せた仕事用の鞄を抱きしめ、こうして大人しく座ってくれる子だったら、デートもしやすそうだけれど――と、少し未来へ意識を向けた。
同棲の準備は着々と進み、10月には実家を出て遥人のアパートでの生活が待っている。２人で生活するなら、寂しく思う広さでも窮屈に感じる狭さでもなく、十分な環境だけど。
鞄を大切に抱えて思案する朝衣が気になって、遥人は声をかける。
「どうしたの、何か忘れでもした？」
「ベビーベッドの置き場所を考えてなくて……」
プロポーズはしたけれど、まだ２人の準備さえ整っていない。冗談を言っている様子もない婚約者からの発言に、遥人はどういう顔をすればいいのかわからなかった。
気遣ってはいても、身に覚えがないと言える清い交際をしていたわけでもない。もしそうであれば、戸惑うかもしれないが嬉しいし、絶対に守ると言えるだろう。
「ハイハイをさせてあげるスペースもって考えると、やっぱりアパートはちょっと手狭かな……？」
「待って待って、ちょっと確認させて？ ……そうなの？」
神妙な面持ちで見つめる遥人に、今度は朝衣が目を瞬かせる番だ。
そうもなにも、育児をするには広い部屋のほうが追々の成長も考えると――そこまで考え、固唾をのんで見守る遥人の言わんとしていることがわかった。
「そ、あ……っ！ 違う、まだ違うから！」
「１人で悩んでるとか、ないよね？」
「ないない！ ……その時はもちろん、遥人に相談するわよ」
その授かり物は、どんなタイミングで届くかはわからないけれど。暫くはあのアパートで穏やかに２人で過ごせたらと思っているのだ、慌てなくていいからねと月に伝言を頼むよう見上げた。
「わぁ、遥人見てっ！」
月と海面の角度が絶妙な時にだけ起こるムーンロード。まるで月まで渡れそうなその道に向かってバスは進んでいる。幻想的ではあるけれど、これはバスで、向こうは海で。
「……え？」
車が海に落ちると、どうなるんだっけ。
それを見たのはアクション映画だったか、サスペンスドラマだったか思い出す余裕も無く、朝衣はぎゅっと目を閉じて遥人にしがみついた。
ぱしゃりとちょっとした水しぶきが座席に舞い込んで、ぽふぽふと柔らかい物が手の甲を叩く。
「だいじょーぶー？」
恐る恐ると目を開けば、小さなうさぎが心配そうにこちらを見ていた。
バスはムーンロードに浮かび、海を走っているし、車内にはうさぎが跳びはねている。
朝衣が状況を理解するより早く、遥人はすでにうさぎと仲良くなったらしく、つきたてのお餅を貰っていたりして。バスの外には月明かりを浴びてキラキラの海面に、浮き輪をつけたり波乗りしているうさぎまでいて。
ちょっと不思議だけれど、これはこれで楽しい。
……もし、強いて言うなら。うさぎに囲まれた遥人に、ほんの少し寂しさがこみ上げる。
子供ができたとしたら、こうやって構っているのを微笑ましいと思いつつも、同じように思うだろうか？
くすりと笑って、朝衣は手元にすり寄っていたうさぎの目隠しをするように撫で、遥人と唇を重ねる。
「……人前だけどいいでしょ？」
柔らかな月光のヴェールを被った朝衣の笑みに、まるで予行演習のようだと今度は遥人から唇を寄せた。
うさぎたちがキャアキャアと喜ぶ声を聞きながら、２人は幸せそうに笑った。
待ち合わせ場所の星ヶ丘駅前へ向かう信号待ちで、手早く住沢 遥人へ向かっている所だとメッセージを送るのも慣れてきた。勤務時間が町長に合わせて変動するのは秘書としてツラいところだが、仕事自体はやりがいもある。
（それに、これからは帰りが遅くなっても遥人と会えるし）
来月には引っ越し準備も整って、同棲が始まる。こうして仕事終わりの合間を縫わなくても会えるのは、素直に嬉しい。けれどどうしてか、そういう恋人っぽさが少なくなるのかな、と寂しく思ったりもして。
「朝衣、お疲れ様」
こんな風に優しく迎えてくれたり、彼が仕事の時は自分が迎えることが当たり前になるのも、やっぱり楽しみではあるのだけれど。
贅沢な悩みだ。朝衣は苦笑してしまったのを誤魔化すように「ただいま」と冗談っぽく笑ってみせた。
お月見を楽しむためのバスに天井はなく、爽快な風が吹いている。都内の電波塔や桜並木なんかを楽しむのにも向いているオープンバスは、空調のいらないこの時期だから良いのかも知れない。
少しの肌寒さなら寄り添って暖をとるのもいいけれど、そのうち。朝衣は膝に乗せた仕事用の鞄を抱きしめ、こうして大人しく座ってくれる子だったら、デートもしやすそうだけれど――と、少し未来へ意識を向けた。
同棲の準備は着々と進み、10月には実家を出て遥人のアパートでの生活が待っている。２人で生活するなら、寂しく思う広さでも窮屈に感じる狭さでもなく、十分な環境だけど。
鞄を大切に抱えて思案する朝衣が気になって、遥人は声をかける。
「どうしたの、何か忘れでもした？」
「ベビーベッドの置き場所を考えてなくて……」
プロポーズはしたけれど、まだ２人の準備さえ整っていない。冗談を言っている様子もない婚約者からの発言に、遥人はどういう顔をすればいいのかわからなかった。
気遣ってはいても、身に覚えがないと言える清い交際をしていたわけでもない。もしそうであれば、戸惑うかもしれないが嬉しいし、絶対に守ると言えるだろう。
「ハイハイをさせてあげるスペースもって考えると、やっぱりアパートはちょっと手狭かな……？」
「待って待って、ちょっと確認させて？ ……そうなの？」
神妙な面持ちで見つめる遥人に、今度は朝衣が目を瞬かせる番だ。
そうもなにも、育児をするには広い部屋のほうが追々の成長も考えると――そこまで考え、固唾をのんで見守る遥人の言わんとしていることがわかった。
「そ、あ……っ！ 違う、まだ違うから！」
「１人で悩んでるとか、ないよね？」
「ないない！ ……その時はもちろん、遥人に相談するわよ」
その授かり物は、どんなタイミングで届くかはわからないけれど。暫くはあのアパートで穏やかに２人で過ごせたらと思っているのだ、慌てなくていいからねと月に伝言を頼むよう見上げた。
「わぁ、遥人見てっ！」
月と海面の角度が絶妙な時にだけ起こるムーンロード。まるで月まで渡れそうなその道に向かってバスは進んでいる。幻想的ではあるけれど、これはバスで、向こうは海で。
「……え？」
車が海に落ちると、どうなるんだっけ。
それを見たのはアクション映画だったか、サスペンスドラマだったか思い出す余裕も無く、朝衣はぎゅっと目を閉じて遥人にしがみついた。
ぱしゃりとちょっとした水しぶきが座席に舞い込んで、ぽふぽふと柔らかい物が手の甲を叩く。
「だいじょーぶー？」
恐る恐ると目を開けば、小さなうさぎが心配そうにこちらを見ていた。
バスはムーンロードに浮かび、海を走っているし、車内にはうさぎが跳びはねている。
朝衣が状況を理解するより早く、遥人はすでにうさぎと仲良くなったらしく、つきたてのお餅を貰っていたりして。バスの外には月明かりを浴びてキラキラの海面に、浮き輪をつけたり波乗りしているうさぎまでいて。
ちょっと不思議だけれど、これはこれで楽しい。
……もし、強いて言うなら。うさぎに囲まれた遥人に、ほんの少し寂しさがこみ上げる。
子供ができたとしたら、こうやって構っているのを微笑ましいと思いつつも、同じように思うだろうか？
くすりと笑って、朝衣は手元にすり寄っていたうさぎの目隠しをするように撫で、遥人と唇を重ねる。
「……人前だけどいいでしょ？」
柔らかな月光のヴェールを被った朝衣の笑みに、まるで予行演習のようだと今度は遥人から唇を寄せた。
うさぎたちがキャアキャアと喜ぶ声を聞きながら、２人は幸せそうに笑った。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2022年08月20日
- 参加申し込みの期限
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- 2022年08月27日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2022年08月27日 11時00分
