【体育祭3rd】Light and shadow !!｜リアクション

【体育祭3rd】Light and shadow !!

　萌々子は体育祭で賑わう校内を歩いていた。実行委員を示す腕章は人を引き寄せるらしい。
「あのー、この子がお腹いたくなっちゃたみたいで」
　母親が連れられた男の子がしゅんとしていた。
「あ、はい。この廊下の先です」
「ありがとうございます」
　と、前方に紫苑の姿が。
「実行委員さーん」
　生徒会の彼女はばっちりコスプレをしていた。女神様を思わせる白いワンピースだが、ところどころ透けていて非常にセクシーだ。
「はい？」
「もしコスプレ衣装を忘れたということなら、これなんかどうですか？」
　にっこりと笑う紫苑。
　どこからともなく取り出したのはビキニタイプのバニースーツだった。うさ耳カチューシャも一緒だ。
「いえ……。実行委員なので過激なコスプレはちょっと」
「じゃあ、これ」
「わっ」
「ではでは～」
　うさ耳カチューシャを装着されてしまった。
「浮かれている実行委員にみえませんか……？」
　それからも声をかけまくられ、ようやく落ち着いたところで、次の種目が騎馬戦だと気づく。
（そういえばぴりりちゃんが出場するはず）
　その中に彼女を探すと、見慣れたお団子頭があった。
（あれは間違いなく）
　萌々子はうんと頷いて、
「ぴりりちゃーん、頑張って下さーい！」
　手を振りながら声をかける。周りが盛り上がっているので大声を出してもさほど目立たないのがありがたい。
　と、そこで気づく。
「え！？」
　よく見ると、ぴりりが幸次に寄りかかっていたのだ。騎馬の足として体を支えているだけだと分かっていても、胸のざわざわが凄い。
「ああっ、なんかアイコンタクトをした気がします」
　息の合ったパートナーのように見えて、悲しいといか寂しというか。
「ああ、もうっ。私のほうが」
　つい声に出てしまい、虚しくなった。
（まさかまさか、これが焼きもち！？）
　いわゆる嫉妬である。ふと、幸次と視線があった気がした。聞こえるはずはないと思っても。
「ううっ」
　顔を真っ赤にした萌々子はグラウンドに背を向けた。もう騎馬戦の結果などどうで良い。逃げるしかなかった。

　リレーが開始された。白線の上に立った霧生愛は深呼吸をした。
　手首や足首を回して、準備運動をし、バトンに備える。反対側の白線に立ったのは浅見柚乃である。
「ああ、そうでした」
　自分の次、アンカーは彼女だったのだ。
（最悪ですね。とはいえ、先輩に渡さないと始まりません）
　やがて、前の走者が近づいて来る。
　愛は構えた。
「行きます」
　バトンはしっかりと握った。地面を蹴って駆け出す。
（後は先輩だけですよ！）
　グラウンドを半周し、柚乃の手にバトンを置く。しかし、するりと滑り落ちた。
（ああ、もう、先輩のトンマ）
　愛が拾う体勢になったのだが。
「させないっ」
　別の方の手で地面に落ちる前にキャッチ、一度地面に膝をついたものの、柚乃は駆け出した。

　我ながら奇跡のキャッチだった。走りながら、柚乃は思う。
　何せ相手は愛。不仲であり、何か失敗でもしようものなら嫌味を言われること必至だ。
（ああ、もう憂鬱で調子悪い）
　どうにか愛の順位をキープしたまま、全力で駆ける。
「行ける」
　そのままゴール。
　バトンの件は嫌味を覚悟するが、順位キープで応戦しよう。そう心に決めるのだった。

　智依子は祖母祖父と楓の姿を見つけて、速足で駆け寄った。
「あ、ママ！」
　嬉しそうに笑った。
「お待たせ、お弁当食べよっか」
「うん！　あのねー、おばあちゃんと一緒に唐揚げ作ったの。粉をつけたんだよ！」
　唐揚げは手作りで祖母が揚げてくれたらしい。
「さ、食べようか」
　祖父が優しく言い、祖母が弁当の蓋を開ける。
「ありがと」
　三人の顔を見て、智依子は微笑んだ。