携帯戦記カプセルギアアーケード・クロス　絆で戦え比翼連撃！｜リアクション

携帯戦記カプセルギアアーケード・クロス　絆で戦え比翼連撃！

　ショッピングモールの季節は、いつも先取りだ。
　１ヶ月以上前からは季節イベントの飾り付けが始まって、気が早すぎないかと浮かれすぎている空気に閉口してしまうことだってある。
　ファッションだってそうだ、ようやっと秋物が楽しめるかと思った頃なのに、店先の新作はちらほらと冬物が並んでいたりして。
　どちらかというと、朝鳥さゆるはそういった物事に振り回されないほう……だったけれど。いち早く冬服が見たいという姫木じゅんのために店を見て回るのも悪くはないかな、と思ってモールに脚を運んだ。
　はず、なのだ。
「右っ！　敵が集まってるから注意して！」
「……わかった！」
　だけど、じゅんのファッションショーにも付き合わずにロボットを操縦しているのは、思い描いた過ごし方とは……なんか、少し違う気がする。
　そう思っていたのも、最初のステージで困惑していた時くらい。さゆるはこの状況に慣れるほか無かった。
「沈めてあげるっ！」
　じゅんの操る攻撃重視な機体は、大きな剣を振り上げてその重さを利用して叩き潰すように殲滅する。構えにロスタイムがあるものの、雑魚であれば守備に強化を入れていている星ヶ丘の敵でも一撃で仕留めることができる。ただ、それでは数を仕留めるには間に合わない。
　けれどもじゅんは、ゲームに慣れているのか敵を上手く誘導し、敵に囲まれることなく確実に仕留めていく。
　そこに彼女の口の悪さも上乗せされれば、ゲームの誘いを断らなくて良かったと思うほどだ。
（別に、ご褒美につられたわけじゃないけど）
　――じゅんを怒らさないようにしよう。
　さゆるは懸命に猫を救出し、時にリーダータイプが出現した時には足手まといにならないよう奮闘して。敵の反応がひとつ、またひとつと消えていく度に罵られる言葉を聞きながら、『じゅんの機嫌が悪くなりませんように』と願った。

　どうにか最終ステージを終えることのできたじゅんは、とても満足げに伸びをする。あとは簡単なアンケートに答えて販促グッズをもらって、それから……。
「あ」
　すっかり忘れていたけれど、さゆるは最初こそゲームをするのを「得意じゃないから」と渋っていたんだ。
　どうしてもやってみたくて、後先考えず「ご褒美をあげるから」なんて約束してしまったけれど、アレコレ考えるのも面倒くさい。さゆるもそこそこに楽しめてたのなら、それでチャラにしてもいいのではないか。
　こんな些細なことで、彼女も根には持たないだろうけど。
（それでも、ご褒美をぶら下げておけば、次も誘いやすくなるかも？）
　――なんて、策略があったのかどうかなど、さゆるの預かり知らぬことなのだけど。じゅんの気まぐれに振り回される日常に慣れてきていたから、次に行きたい店も食べたいスイーツも次々に決めて引っ張られることが楽しくなってきてしまった。
　だから、「次は観覧車ね！」と乗せられたゴンドラも気まぐれの１つなんだろうと、大した期待をしていたわけでもなかったのに。
　地上が見えるか見えないか。まだ天辺には少しあるそんなタイミングで、優しいキスをされるだなんて思わなくて。驚いて瞬くさゆるに、じゅんはもう一度と唇を合わせ甘く啄む。
「じゅん……」
「さっき言ったでしょ。ご褒美あげるって」
　決して深くはならず、軽く唇を食むように触れるのがまどろっこしい。
　さゆるは薄く口を開いて誘い込もうとする――のだけど。あくまでも『苦手なゲームを頑張ったご褒美』の域をでないキスの時間は終わってしまう。
　けれど、ご褒美ではない『恋人としてのキス』なら、おねだりできるのかもしれない。