さよなら、普通の日｜リアクション

さよなら、普通の日

　新井すばるとシダ美穂戸、山路源太郎は、九夜山の調査に来た。
　山によく来るというシダの案内で、奥へ奥へと分け入っていく。
　音楽が動植物にどんな影響を与えているのか調べに来たすばるは、ふと足を止め、たびたび観察を行う。
　幸い頭の中に流れる音楽はクラシック。山登りするには、しんどい選曲だが、観察にはピッタリだ。
「ねこったーにも、この音楽は聴覚とは無関係に作用してるとあったけど、なるほど、耳のない蛇も音楽に惑わされてるみたいだ」
　目の前で蛇がたくさん、こんがらがった蛸足配線のように、ぐてーっと横になっている。
　植物のほうは、どれほど影響が出ているのかよくわからなかった。と言うのも、テオが創り出した世界のため、この島には見たこともない植物がいっぱいあるのだ。だから、あまり参考にならない。
　トレードマークの”ちくわ”をくわえ、すばるは観察結果を書き留める。
「なんやすばるは、蛇やら草やら調べてからに、何がそんなにおもしろいんかのぅ」
　源太郎は唸った。
「そもそも草に耳はあらへんがな！　音楽なんて聞こえへんがな！」
「それでも、ろっこんの影響があるかを調べることで、どんな性質の能力なのかわかるだろ。それが問題解決に繋がるんだよ、山路先輩」
「小難しいことを考えるやっちゃ」
「先輩は肉体言語に寄り過ぎだよ」
　ふと、先行しているシダが叫んだ。
「ちくわ、ノロマ！　遅いぞ！　ケツアゴ先輩も！」
「ごめんごめん、シダちゃん、今行くよ」
　しばらく山道を歩いていると、音楽がヘビメタに変わった。その途端、山は不穏な気配に包まれた。
「山が変だ。先に様子を見てくる……チアントイ！！」
　ろっこん『ベトナムユニコーン』を発動し、シダはサオラに変身。下生えを颯爽と掻き分けて進む。
　すると、動物たちが喧嘩している場面に遭遇した。タヌキとキツネが眼光を鋭く光らせ、とっくみあっている。
「こらーお前達！　ダメ！」
　割って入るシダだが、しかし、音楽の影響は彼女の心も蝕む。
「う、ううう……、頭が……」
　そこに、ろっこん『エレガント＆エレファント』でナウマンゾウに変身した源太郎が突っ込んで来た。暴れ出すシダを取り押さえる。
「どおぉぉりゃーっ！！」
　すばるも慌ててシダを取り押さえる。
　ややあって、音楽はクラシックになった。
　みんな正気を取り戻したが、怪我をした動物たちがたくさんいる。
「怪我してる動物が多い。下へ運ぶのも２人に手伝ってもらいたい」
　シダは言った。
「ふだんはこんな争いなんてこのこたちはしないのに……」
「シダちゃん……」
「シダはくやしい。こんな気持ちの悪い世界は見たくないよ。普通がなにかはシダにはわかんないけど、こんな世界とはおサラバしたいよ」
「……普通を死守するんやったかな？」
　源太郎は怪力で、動物たちをどっちゃり抱える。
「ええよ、守ったらええねやろ。わしかて、こんなおかしな世界はごめんや」
「この世界を元にもどそう。みんなでさ」
　すばるも頷く。
　シダは町を見下ろせるところに立ち、大きな声で叫んだ。
「てすてす。普通の世界さん飛んでこい。かわいいシダがお呼びでーす！」