さよなら、普通の日｜リアクション

さよなら、普通の日

「……幕切れか」
　シーサイドタウンのビルの上、セルゲイ・ボスコフは町を見下ろしていた。
　どこかに携帯で連絡すると、ここにはもう用がなくなったのだろう、踵を返す。
　するとその時、彼の影が歪み、巨大な熊の姿となった。
「どんな夜にも終わりがあるように、どんな夢も覚めねばならぬ」
　異形の影を引き連れ、セルゲイは消えた。

「……どうしてこうなったのか、自分でもよくわからないんだ」
　寝子高一年。野菜原ユウ（のなはら・ゆう）。
　後に非公式新聞部の取材を受けた時、この騒動の原因であるユウはそう答えた。
　彼のろっこんは『ダイナモセンス』と言う。聞いている音楽によって、自分のテンションを変化させる能力だ。明るい音楽ならポジティブに。悲しい音楽ならネガティブに。自分にしか効果がなく、それもささやかな変化しか引き起こさない能力だ。
　そのろっこんが暴走した結果、与える変化の度合いがコントロール出来ないほど強力に。加えて、効果範囲が島全土にまで広がってしまったのだ。
　けれど、ただの暴走なのだろうか。あのとんでもない威力は、ただの暴走の範囲をはるかに飛び越えてしまっている。
「……あれから暴走はしてないよ。発動させても、特に変わったことはない。なんだったんだろうな、あの凄まじい力は。思い返してみても、さっぱりだ。俺の中にあんな力が眠ってたんだろうか……でも、そんな気はしないな。どこか別のところから、あの力は沸き上がったような気がする。
　まぁ人間、身の丈にあったものが大切だよ。今の俺には、ささやかな能力がお似合いさ。あの力を失ってしまったのは、少し寂しい気がするけど、フツウが一番だ。
　……あ。ごめん。あんな事件を起こしといてそりゃないよな。でも……正直に言うと、ちょっと気分良かったんだ。俺のろっこんって、俺に似て冴えないんだよ。端から見て効果がよくわかんないし、そこまで使える能力でもないしさ。そんな俺のろっこんでも、極限まで成長したらあんな感じになるのかなって……」

　窓から、桜が咲いているのが見える。
「超能力があったら、ミステリー小説のトリックとか謎じゃなくなるだろぉおお！　そんな世界、認めてたまるか！　商売あがったりだ！　発表できるかこんなもの！」
　鉄真は、今回の事件に関する資料をビリビリに破り捨てた。
　非公式新聞部が使っている空き教室の床に、桜吹雪のように、資料の雪が降り積もった。
「………………」
　美桜は、思うところがありそうだが、無言でその様子を見つめる。
「ほ、ほうき。ほうき、持ってこなくちゃ」
　美影はパタパタと教室を飛び出す。
「俺は間違ってないよな、局長！」
　話を振られた日向は、肩をすくめた。
「……ま、出さないのが正解かな。知ってる人はあんな事件、思い出したくもないだろうし。知らない人が見たら、ひかれるだけよね、こんな記事」
　大きく伸びをして、日向は窓の外を見つめる。
「あ〜あ、また新しいネタ探さないと」

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あとがき

担当マスター：梅村象山
ファンレターはマスターページから！

本シナリオを担当させて頂きました、マスターの梅村象山です。
参加してくださった皆さん、ありがとうございます。

今回も、読み応えのあるアクションがたくさんありました。
奇麗にアクションも分散していたので、各方面、それぞれ盛り上がりがあって面白かったです。
家から出ない、インドアな人もいたりして（笑

あと、想定していない方向にアクションが向かってしまった人もいると思うのですが、
一応ここで、向かってしまった大きな理由を説明しますと、
行動を阻害する音楽をどう扱ったか、を基準にしています。
あえて音楽を活かすのか、それとも音楽を無効化する術を探すのか。
どちらにせよ、こちらが上手くいっていれば、基本的には思う行動がとれています。
特に音楽を活かしも、無効化もしなかったアクションの場合は、
音楽による影響が、大きく行動に出てしまっていると思います。

と言うわけで、初のホワイトシナリオでしたが、楽しんで頂けましたでしょうか？

それでは。また別のシナリオでお会いしましょう。
その時はまた、よろしくお願いします。

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