今日をモー突進！｜リアクション

今日をモー突進！

　鳥の囀りと部屋に射し込む僅かな朝陽で御剣刀は目を覚ました。鼻息は荒く、半ば興奮した様子で上体を起こす。襟首に手を当てると少し汗ばんでいた。
　緩やかに溜息を吐き、目に掛かるボサボサの前髪を無造作に掻き上げる。その手が不自然に止まった。
「なんだ？」
　引っ掛かった原因を掴む。その状態で上へと滑らせるように動かす。左右に同じような物体が生えていた。
「角だと！？」
　瞬時に立ち上がった。自身の身体に目をやり、ほっとした表情を浮かべた。
「変化は角だけか」
　試すように肩や腰を回す。剣道の足捌きも問題なく行えた。
　目は部屋の隅に向かう。壁に立て掛けられた木刀をじっと見て自ら視線を外した。
「今の気分は……海だ！」
　笑顔となって行動に移す。高揚感と共に加速して出かける用意を済ませた。
　スマートフォンで誰かと連絡を取り合うことなく、刀は身軽な格好で部屋を飛び出していった。

　刀は旧市街の入り組んだ道を軽快に走る。信号に足止めされないように路地裏を選んだ。
　踏切を超えて寝子島街道に出た。左手の海を眺めながら閑散とした歩道を尚も走る。目的地が近づくに連れ、目の輝きが増す。腕の振りはシャープとなり、大気を切り裂くような疾走に移行した。
「もうすぐだ」
　息と同様に声が弾む。更に速度を上げたことでランニングシャツが激しく波打った。
　寝子ヶ浜海岸に面した防風林を抜けた。刀は斜面を駆け下りて白い砂浜を一直線に横切る。ウォーターシューズで波を蹴散らし、上体を低くして角の生えた頭から海に飛び込んだ。
　十分に身体は温まっていたが、冷てー、と浮上と同時に叫んだ。サーフパンツのおかげで僅かな停滞もなく、力強いクロールを見せる。
「うおおおお！」
　息継ぎの合間に雄叫びを上げた。
　空と似た薄青い海に深みが加わる。次々と押し寄せる波を腕で断ち割り、群青色の沖へ突入した。不安を微塵も感じさせない泳ぎが続き、適当なところでターンを決める。
「気持ちいいー！」
　身を震わせる程の歓喜の声が大海原に響き渡った。

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