今日をモー突進！｜リアクション

今日をモー突進！

　猫鳴館の一室。月原想花は唸るような声で薄っすらと瞼を開ける。着ていたＴシャツは汗でぐっしょり濡れて身体に張り付いていた。胸元を摘まんで引っ張っても一向に改善されない。
　想花はぼんやりとした状態で立ち上がる。視線を下げて窓際に落ちていたタオルを拾った。握った瞬間にわかる。完全に乾いていた。
「……濡らさないと」
　部屋を出る直前、髪を手で整えようとした。
「なんだろう」
　手櫛が途中で止まる。不思議に思いながらも部屋を出た。
　想花は薄暗い廊下を踏み抜かないようにそろそろと歩く。途中にある小さな洗面台に向き合った瞬間、正面の鏡を覗き込む。頭部から水牛のような一対の角が生えていた。
「なんでこんなのが生えてるの？」
　疑問の声と共に完全に目が覚めた。それどころか。信じられないものを見るような目付きとなった。
「この美人さんが、今の、ぼくなの？」
　艶やかな黒目に長い睫が程よい憂いを与えていた。幼い部分も残っていて他者の庇護欲を駆り立てる。
　美しさは顔だけにとどまらない。スレンダーな体型でありながら女性らしい胸の膨らみを備え、Ｔシャツ越しに見てもわかる。
「あれ！？　ぼく、眼鏡を掛けていないのに」
　信じられないという風に両手で顔を摩った。その仕草が妙に艶めかしく、思わず薄桃色の唇を舌で舐める。
「こんな薄暗いところにいたらダメだよね」
　想花は軋む廊下を戻っていく。部屋に入ると押し入れからビキニを取り出した。手早く着替えて丈の長いＴシャツを重ねた。
「なんか色っぽいね」
　軽く腰を振ると裾が揺れてボトムの一部が見えた。
「ぼく、海で注目されるかも」
　ビーチサンダルを履いた想花は明るい笑顔で出かけていった。

このページにイラストを設定する