今日をモー突進！｜リアクション

今日をモー突進！

　桜花寮に朝陽が降り注ぐ。気温の上昇と共に眠りは浅くなり、本条小萩は目を覚ました。乱れた髪を直そうとした。その指先に硬い物が当たる。
「ふむー、これはなんでしょう」
　二段ベッドから下りた小萩は両手で頭部の角を摩る。手鏡を使って直に見ると黒い角の存在が確認できた。
「角です。用途はわかりませんが今日の小萩はいつも以上の魅力を感じます。人類の枠を超えた存在に昇華したのでしょうか」
　言いながら背中に手を回す。肩甲骨を中心に触ってみた。
「天使のような羽は生えていないのです。そのような物がなくても煌めく才能には一点の曇りもありませんが」
　小鼻を膨らませて踏ん反り返る。机の隅に置かれたスマートフォンが目に留まった。
「今の小萩であればスマホの全ての機能を使いこなせるかもしれませんね」
　口にした途端、急に真顔に戻る。
　――寝ている間に生えた角が短時間で消えることは十分に考えられます。時間を無駄遣いしないように一つに絞った方がいいでしょう。
　今一度、机に意識を傾ける。
「原稿です。『スーパーレジェンド伝説ko-ha-gy』に全精力を傾けましょう。きっと今までにない素晴らしい作品が描けるはずです」
　小萩は椅子に座ると引き出しから必要な画材道具を取り出して机上に並べた。
「小萩の頭の中にストーリーが流れ込んでくるのです！」
　真っ新な画用紙にいきなりコマ割りを書き込む。ラフを素っ飛ばして即座にペンを入れる。
「敵は強大です。相手の能力をコピーして使うことができます。魔法少女ko-ha-gyの能力を駆使した猛攻で苦戦は必至です」
　迫力ある戦闘シーンが描き込まれ、窮地に追い込まれたko-ha-gyは後退を余儀なくされる。勢い付く敵は追撃の手を緩めない。
　主人公に感化されたのか。描いている小萩の表情が苦悩に歪む。
「調子に乗るのはそこまでなのです！　この最大のピンチが絶好のチャンスに変わるのです！　ko-ha-gyの潜在能力を思い知るのです！」
　眠っていた能力が引き出され、極大魔法の一撃が瞬く間に敵を打ち砕く。
「なんという素晴らしい展開なのでしょう。小萩を超えた小萩の傑作が歴史の一頁に加わったのです」
　自身の言葉に目が潤む。十分に余韻に浸ると再び勢いを取り戻した。
「まだ完成ではありません。コンビニに原稿を持ち込んでコピーしましょう。製本に近い状態にして頒布するのです。スマホで情報を拡散します。今の小萩は何でもできます。人知を超えたスーパーレジェンド小萩がここに爆誕したのです」
　小萩は急いで着替えた。出来上がった原稿を封筒に入れて小走りで部屋を出ていった。

このページにイラストを設定する