【１０周年】吾輩は見た～週刊かぎしっぽのねこねこ記者｜リアクション

【１０周年】吾輩は見た～週刊かぎしっぽのねこねこ記者

●週刊かぎしっぽvol.XX129『猫恋の鐘』

　読猫諸兄は、エノコロ岬にある鐘のことを知っているかにゃ？
　その名も猫恋の鐘。
　エノコロ岬の海を一望できる高台には昔々、頭が五つある猫がいて悪さをしていたそうにゃ。しかし五頭の猫は天女に恋をし、改心の末に結ばれたそうにゃ。以来、その丘は恋人たちの丘と言われるようになり、そこで一緒に鐘を鳴らして綺麗な音を奏でれば、永遠の祝福がもたらされる――と人間たちは信じているにゃ。
　今日も男女が猫恋の鐘を鳴らしにやってきたにゃ。
　あれは確か、ウォルター・Bっていう寝子高の先生と、寝子高生の稲積柚春ちゃんにゃ。
　柚春ちゃんがウォルター先生の手を導く感じで鐘から伸びた綱を持って、ふたりでカラーンカラーンといい音で鐘を鳴らしたにゃ。
「先生を愛称で呼べますように先生を愛称で呼べますように先生を愛称で呼べますように」
「流れ星じゃないんだからそんなに早口で３回も言わなくても叶うと思うけどねぇ」
　おだやかなかんじにゃ。いいことがあるといいにゃあ。

　吾輩、後日、星ヶ丘のブラッグウッド家の屋敷を訪れる機会があったにゃ。
　この屋敷には年配の女のメイドさんがいて、ときどき吾輩にごはんをくれるにゃ。老メイドさんはそういうとき吾輩がごはんを食べるのを眺めながら、誰にもいえないことを喋ったりするにゃ。
「近ごろ、可愛らしい方がウォルターさまを訊ねていらっしゃるんですよ。……わたくしは嬉しいんです。ウォルターさまは上辺は人当たりがよくても内心ではどこか人を遠ざけるところがおありでしたから。事件のあと警察官の夢を捨て、教師という人と関わり合う職に就きはしましたけれど、心を許した方はいなかったと思うのです。わたくしにも本心を見せてはくださらない……ウォルターさまの気遣いと分かっていますが、お一人で抱え込んでいらっしゃらないかとずっと気に掛けておりました」