【１０周年】吾輩は見た～週刊かぎしっぽのねこねこ記者｜リアクション

【１０周年】吾輩は見た～週刊かぎしっぽのねこねこ記者

●週刊かぎしっぽvol.XX116『ぱったり電池切れの日』

　ある月の綺麗な夜のことだったにゃ。
　お散歩していた吾輩は、電気の点いていない部屋の中に小山内海ちゃんが倒れているのを見つけたにゃ。
　海ちゃんはほかの人間みたいに声をつかったおしゃべりが出来ないにゃ。具合が悪いのに助けが呼べないでいるのかもしれないと思った吾輩は、空いていた窓の隙間から部屋の中に入ってみたにゃ。
「にゃー（海ちゃんだいじょうぶかにゃ？）」
　吾輩が呼びかけると海ちゃんはゆっくりと首だけ傾けて吾輩の方を見たにゃ。

　よかった。意識はあるみたいにゃ。でも元気はないにゃ。
　どうしたのかとあたりを見回すと、海ちゃんのまわりにはスケッチブックがいっぱい散らばっていたにゃ。どれも途中みたいで、描いては消し、描いては消ししたのか、小さくなった消しゴムも転がっていたにゃ。どれも上手にゃのに……と思っていたら、とあるスケッチブックの隅にこんな文字が書いてあったにゃ。

　――スランプみたい。

　スランプ。吾輩知ってるにゃ。絵とか小説とか創作している人が、なーんか上手くいかない気がするときのことにゃ。若者の反抗期みたいなものでぐーっと成長しようとしているときに起こるって聞いたこともあるにゃ。でも成長しようとして一回りおっきいエネルギーを使うと、電池切れになっちゃうこともあるにゃ。
「にゃにゃあ（ともかく海ちゃん、今は一休みして充電にゃ。吾輩がそばにいるにゃ）」
　吾輩は海ちゃんの背中にくっついて丸くなったにゃ。
　海ちゃんが呼吸しているのを感じるにゃ。
　呼吸はだんだんゆっくりになって、いつしか寝息になったにゃ。
　おやすみ海ちゃん。
　明日はきっといい日にゃ。

「にゃにゃあ、うちの御主人様もときどき電池切れになるにゃ」
「人間は忙しすぎるにゃ。猫みたいにお昼寝してときどきお散歩してゆったりする日があってもいいにゃ」