【花火大会】打ち上げ花火の響く夜に。｜リアクション

【花火大会】打ち上げ花火の響く夜に。

　んー、と倉前七瀬はどこか、途方に暮れた気持ちでまだ明るさの残る夏の夜空を見上げた。花火の打ち上げ時間まではまだまだ時間があって、でも七瀬が今困っているのはそこではない。

（1人はつまらんけど、誘う相手がおらんとです）

　否、正確には誘いたい相手なら、居る。ウォルター・B先生――は、でも仕事かもしれないし、それでなくても素敵な人なので、とっくに他の人に誘われてるかも知れないし――

（……む）

　そんな想像をしてたらちょっと嫌な感じがして、胸元を抑え眉を寄せる七瀬である。――何か悪いものを食べたのだろうか。
　ふむん、としばし真剣に考えこんでから、そんな訳はない、と首を振った。むしろ、七瀬はこれから夜店で何か食べようと、出かける所なのだから。
　ふぅ、と軽く頭を振って気持ちを切り替え、とまれ祭会場に行こうと七瀬が歩き出した先、参道商店街では御巫時子が、五十嵐尚輝先生がやって来るのを、そわそわと待ちわびていた。尚輝先生をお誘いした待ち合わせの時間よりは、少し早く着いているのであちらこちらを眺めつつ、彼の人がやって来るのをただ待つ時間も愛おしい。
　そうしてしばらく待っていると、ほどなく尚輝先生が現れた。すでに時子がそこに居るのを見て、パチリ、と目を瞬かせる。
　そんな尚輝先生に微笑んで、時子はぺこりと頭を下げた。そうして自然に並んで歩き出した、2人の足元でカランコロンと下駄が鳴る。
　浴衣の裾を捌きながらの足取りはいつもよりも緩やかで、だが提灯の灯りに照らされいつもと違う雰囲気の商店街を味わうにはちょうど良い。

「尚輝先生、どこから回りますか？」

　ゆえにのんびりとそぞろ歩きながら、時子は尚輝先生を振り仰いだ。まずはヨーヨー釣りなんて良いんじゃないだろうか――もし鳥の絵の描かれたヨーヨーがあれば、是非とも釣りたいものだ。

　そんな光景があちら、こちらで見られる商店街は、花火を控えてますます賑やかで人が多い。それはそれで楽しいけど、人の多さに少し疲れてしまった恵御納夏朝と恵御納夏夜は、商店街の散策を切り上げ休憩がてら寝子島神社に向かう事にした。
　今の彼女達が身につけているのは、商店街に来てから受け取ったトラのケモ耳尻尾。同じ猫科とはいえ、やはり猫耳しっぽも名残惜しかったのだけど、トラ耳しっぽもそれはそれでもっふり可愛くてテンションが上がる。

　ゆえに、なぜだかとってもおめでたい気分になりながら「がおー！」「がおー！！」と吠えて歩く、姉妹の姿は傍から見ても微笑ましい。にこにこと暖かな眼差しを注がれながら、そんな風に楽しく神社までの道のりを辿った夏朝と夏夜は、境内にちらほら見られる猫達の姿にぱっと顔を輝かせた。

「猫さん達、可愛い……！」
「花火の音……大きいから気を付けてね」

　近寄っても逃げない何匹かを撫でながら、ほにゃりとする夏朝の傍らで夏夜は、真剣にそんなアドバイスをする。と、猫達の方も2人に――正確には彼女達が身につけているトラ耳しっぽに興味を惹かれたようで、ふんふん、と匂いを確かめ始めて。
　うぅぅ、とそんな猫達に悶えた夏朝が、如何にも深刻そうに顔を覆った。

「猫耳しっぽの方が良いかな……それとも別の……うぅ、ケモ耳尻尾が4つ……体が4つ欲しい……！」
「確かに全装着は難しいけど、分離叶えてさらに体が４つだと……多すぎでは……？」

　そんな夏朝の言葉に夏夜は、その光景を想像してみて、むむ、と眉を寄せる。それはもう、どこかの6つ子も真っ青ではなかろうか。
　少女達の、もふもふしくも悩ましい夜は、まだ終わりそうもなかった。