●放課後・部室棟パート（２）●


【部室棟１Ｆ・水泳部の部室】

「ギャーーーーーーーーーーーーーーー！？」
　冴木 竜司のドロップキックで佐久間 堂鉄が部室の端まで吹っ飛び、さらにその悲鳴を聞きつけて、風紀委員の神無月 綾もそこに飛び込んできた！
「佐久間さん……そんな格好でいったい、何をしてるんです」
　パッツンパッツンの競泳水着姿のままひっくり返っている、同じ風紀委員の佐久間をそこに見付けて、呆れるしかない綾。
「いえ、これは……風紀委員としての、いつもの！
　放課後の校内巡回の活動の一環でして……」
「私にはどう見ても、ロッカーにあった女子部員の水着に、
　勝手に着替えて喜んでいる、変質者のようにしか見えませんが……」
「Σ ああっ」
　変質者と言われて、何故だかちょっと鼻息が荒くなったように見える佐久間である。
「うおぉぉぉぉおん！　何でまゆ先生が着替えてないんだよっ！？
　まゆ先生をどこへやった！　返せ！　俺のまゆ先生を返せえ！」
　こっちはこっちで理不尽なことを言いながら、佐久間の胸ぐらを掴んでいる冴木だ。一応のフォローを入れておくなら、
「いや、まゆ先生は水泳部の部室では着替えないんじゃねーかな……。
　もし着替えるならプールの更衣室の方か、それか職員専用の更衣室とかだろ」
　と説明する宇佐見 望月。
　また、これは重要なことだが、エッチイベントを起こすハジメのろっこん、【ラッキー☆スケベ】が発動するのは、ハジメの気分が「落ち込んだ時」。ここまでの道中、「すごい才能」「男子に夢と希望を与える」「もっと自分を誇っていい」などと、ハジメを褒めそやしていた冴木は、むしろ（友人として）彼を元気づけてしまっていた。
　もちろん、ハジメのろっこんの発動条件など、知る由もない冴木である、これは仕方がない。結果的には、まゆ先生とのドッキリ☆ハプニング、発生せず……という結果になった。
　一方、仲間の佐久間堂鉄を、無表情にキリキリ取り締まっていた神無月綾の方は、
「例えば、痴漢事件の犯人がどうなるか知っていますか？
　警察に突き出され処罰、その後の民事裁判でケツの毛まで毟り取られて
　ボロ雑巾のようになり社会に出されますよ？
　今回は冤罪……つまりラッキースケベで起こった行為のようには見えませんし。
　風紀委員室までご同行願って、じっくりお話を聞かせて頂きましょう」
　暴力は用いず言葉で責め立て、ついでに佐久間の水着写真を、記録保存のためにスマフォで撮影し、さらに懐から年季の入った荒縄を取り出す。
　その荒縄をひと目見て、何故か佐久間が興奮し始めた。
「そっ、その荒縄で僕をどうするつもりなんです……きっと縛るんですね？
　固くキツく亀甲縛りに縛り上げて、僕を風紀委員室の天井に吊るすんですね？
　やめて下さい！　そんなふうに恥ずかしい格好のまま、
　僕を丸一昼夜も放置するのはやめて下さい！（ハアハア）」
　ちょっとＭ気質があるっぽい、佐久間さんだ。しかし綾の方は淡々と表情も変えずに、
「いえ、そんな手荒なことはいたしませんよ。
　この荒縄は、取締りに使うのではありません。
　勝負下着ですよ……素敵な殿方と過ごす時のための……淑女の嗜みです」
　荒縄が勝負下着っていったい……どういうことだろう？
　顔を見合わせる冴木と望月とハジメの３人。ホワンホワンホワ〜〜ンとその勝負下着を身に付けた綾の姿を、フキダシの中に思い浮かべて……？
「うわわわわ！？　わーーわーーわーー！！！」
　慌てて望月が、その頭上のフキダシを掻き消したので、全年齢的にはセーフだ！
「それにしても、そちらの３人は何の用があって、この部室にいらっしゃるんですか？
　見たところ、水泳部の部員ではないようですが……」
　そして風紀委員の綾の矛先が、今度は冴木と望月とハジメの方にも向いてきた。
「いや、その……すっ、すみませええん！」
　何もしてはいないが、約１名のロリコン紳士に下心があったことは否定できない。綾の鋭い追及の目を逃れて、這々の体で逃げ出す３人だった。


【部室棟１Ｆ・陸上部の部室】

「（ぜえぜえ）ふう全く、どいひーな目に遭ったぜ……」
　ようやく陸上部の部室前までたどり着き、ほっとひと息をつく３人。
「ほら、やっぱり言った通りじゃないですか。ボクの周りで、
　そんなエッチなハプニングなんて、起こるはずがないんですよぅ」
　そう言うハジメに、ぐぬぬ……と部室のドアを見つめる冴木 竜司だ。
「いや、まだだ！　まだ俺たちには陸上部があるッ！」
　冴木の意図はともかく、元々案内するはずだった陸上部に、ようやくハジメを連れてこられて、今度は宇佐見 望月の方のテンションが上がってきた。
「さあさ、鈴木いちろー君、入りたまえ！
　なに？　見学するのにユニフォームが必要？
　大丈夫大丈夫、ふっつーに学年ジャージに着替えて見学すればいーんだって！
　俺様も練習の時は適当なＴシャツと学年ハーパンよ！」
　そしてまた素でハジメの名前を間違えて、落ち込ませている望月である。
「あれっ、田中がじろー君だったかな？　まあいいや。
　ようこそ、佐藤しんたろー君！　我らが陸上部の部室へ！（ガチャ）」
　中にいたのは……大きな鏡の前で、「コマネチっコマネチっ」とジャパンのギャグを練習している、パンツ一丁のメアリ・ラングストンだった。

「ふっふっふ、このパンツの食い込みっぷりはイイのう〜」

　縞パンのパンティーラインに沿って、両手で激しい切れ上がりを表現しているメアリ。ちなみに上半身は真っ裸だが、そのツインテールの金髪で、絶妙なカンジにバストトップは隠れている（ので大丈夫だ！）。
「……あれ？　……あれー？
　何だかウチの部室で、知らないおにゃの子が着替えて（？）るんですけど……」
　呆然と立ち尽くしている望月に、ハッと気が付く練習中のメアリ、悲鳴のひとつでも上げるのかと思えば、
「ヒャッハー！　見られちまったのじゃ〜〜！」
　何だか世紀末だか近未来っぽい叫び声を上げて、望月と冴木の２人に猛然と襲い掛かってきた！
「イヤン爆寒！　……ってそーじゃないわぁ！　誰！？　誰なの！？」
　逃げ惑う望月の眼前に「とうっ！」と迫るメアリのジャンピングキック、
「のわああああっ！？　危なっ！！」
　しかしそのキックは外れ、勢い余ったメアリは、大股開きのまま望月の顔面に落下……
「！？（モ、モガーーーーーーーーーーーーー！！？）」
　倒れた望月がハッと気が付くと、その口を塞ぐように覆いかぶさっている、メアリのほかほかの縞パンの股間……！！
「ちょっ望月いいィ、大丈夫か！！？　何てうらやまけしからんコトになってるんだ！！」
　慌てて駆け寄ろうとする冴木だったが間に合わず、
「……サヨナラ、俺様の純潔（カクッ）」
　宇佐見望月、顔面瞬間沸騰ののち──殉死。
　享年１７歳。テキサスからやって来たじゃじゃ馬娘に、その童貞を根こそぎ奪われての壮絶死であった。
「ど、ど、ど、どおてえちゃうわ！」
　あっまだ生きてた。そして望月を助け起こそうとした冴木竜司も、ニコッと微笑まれたメアリにワンパンチで吹っ飛ばされ、
「ギャーーーーーーーーーーーーーーー！？」
　もはやワケが分かりません。
「何の騒ぎ……って、またさっきの人たちですか！」
　そこに駆け付けた風紀委員・神無月 綾に現場を目撃され、今度こそ捕まってしまう冴木竜司と宇佐見望月の２人。どう考えても望月たちの方が被害者なのだが、
「本当なんだ！　知らねー女子がおっぴろげジャンプで、望月に襲い掛かってきたんだって！」
　いくら説明してもまるで信じてもらえない。その当の女子、メアリは手早くゴスロリ服を着ていつの間にか、すたこらサッサ〜と逃げ去ってしまっていたし。
「厳しい処罰は風紀委員としてはするつもりはありませんが、
　反省の意を示していただけなければ、こちらも対応を厳しくしなければなりません。
　般若心経の写しを作成して頂きましょう」
　そうしてその場に正座を命じられ、えぐえぐと写経をさせられる２人なのだった。