反転の逆立ち｜リアクション

反転の逆立ち

　太陽が昇り切っていない時間帯、三折部朝衣は寝子ヶ浜海岸に訪れた。ゆったりとしたポンチョを着てサーフボードを小脇に抱えている。
「良い感じ」
　潮風に向かって目を細めた。白い波頭が続々と押し寄せてきた。
　早速、サーフボードを砂浜に突き立てる。その傍らで思い切りよく脱いでビキニとなった。近くにいた男性達の目をそれとなく集める。
　朝衣は弾けるような笑顔でサーフボードを抱えた。用意したリーシュコードを付ける間を惜しんで海へと駆け込む。
　腰まで浸かるとサーフボードの上で腹這いになった。波に向かって力強いパドリングを開始した。
　海の色が深い青へと変わる。それに合わせて波も変化した。大きな波が見られるようになった。
「ここよ！」
　完全に波を捉えた。ノーズを反転させると素早くサーフボードの上に立った。崩れる波の力を利用して一気に速度を上げる。
　安定したライディングから大きなボトムターンを決めた。瞬間、笑顔で拳を握る。その僅かな油断でバランスを崩し、ワイプアウトとなった。
　海中で程々に揉まれて浮き上がると悔しそうな顔を見せた。近くにあったサーフボードを掴み、再び腹這いとなって波に挑んだ。
　波を乗りこなし、時に波に呑まれた。濃密な二時間を過ごした朝衣は砂浜に戻ってきた。
　サーフボードを砂浜に置いた。相棒に寄り添うようにして座ると穏やかな顔で海を眺める。
「どういうこと？」
　右手に顔を向ける。青年が逆立ちをしていた。不安定な砂浜もあって危なっかしい。思った通り、派手に倒れた。
　別の方向から短い声が上がった。目をやるとパンツルックの女性が仰向けに倒れていた。
「まさか、ね」
　女性は照れ笑いを浮かべて四つん這いになった。砂浜を蹴るようにして逆立ちをした。
　朝衣は渋い顔で小首を傾げる。見る範囲を広げると似たような姿が目に付く。
　気付けば朝衣も砂浜に両手を突いていた。腰を高くして蹴り上げるようにして逆立ちをした。
　ふらふらとしながらも器用に歩く。
「悪くないわ」
　歩いている内に安定してきた。周囲を見る余裕が生まれた。
「不思議な風景よね」
　逆さまの状態で砂浜を歩き続ける。妙に頭はすっきりしていた。この状態が普通と言わんばかりに速度を上げた。
「この島らしいよ。本当に」
　呆れたように笑ってどこまでも歩いてゆく。

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