夏の林間学校、いざゆかん歴史と美食の郷！｜リアクション

夏の林間学校、いざゆかん歴史と美食の郷！

　鶴ヶ城と日新館の見学が終わるのを、楡宮遠海は今か今かと待ちわびていた。
「歴史ロマンもいいけど、ご当地グルメで頭がいっぱいなのよね」
　バスから降り、先生からの諸注意が終われば、事前にチェックしていた店に直行だ。
　まずは、わっぱ飯で前哨戦。
　鮭に枝豆、山菜とカニ、イクラやキノコ、卵焼きに筍。それぞれ具材の違う四種のメニューを全て注文する。
　曲げわっぱのふたを開けると、湯気と共にふわりと食欲をそそる香りが広がった。
　蒸し上げた筍は歯ごたえを残しつつも柔らかく、いくらのぷちっとした食感も残ったまま。
「お嬢さん、よく食べるねぇ」
「はい！　美味しくて、いくらでもお腹に入っちゃいます！」
　店主が目を丸くするのも気にせず、あっという間に全種類完食。しかも汚く食べ散らかすのではなく、味わうように丁寧な所作だ。
　わっぱ飯を制覇した後は、ラーメン屋の暖簾をくぐる。
「このチャーシュー、大きいのに柔らかくて……はぁ、溶けちゃう」　頬を染めながら、熱いラーメンと冷やしラーメンの両方を食べ終わる。
　お次は馬刺しの店で、真っ赤な宝石のような赤身を堪能。矢継ぎ早にソースカツ丼の店に突入する。
「ロース肉を使った揚げたてのカツに、継ぎ足しの甘めソースが絡む絶品かぁ……大盛りお願いします！」
「お嬢さん、ウチのカツは大きいよ？　大盛り注文で、お腹大丈夫かい？　ハーフサイズもあるけど」
　心配そうな店主に、遠海は笑顔で「お気遣いありがとうございます」と答え。
　ソースしみしみのカツは勿論、ご飯粒一つ残さず食べきって、店を後にしたのだった。

◆

「絢ちゃん、ここだよ、ここ！　果樹園直営のフルーツカフェ！」
　友人２人と共に、昼食後に福島の桃スイーツを食べ歩いた絢は、最後の締めを求めて店に入った。
　季節ごとのもぎたてフルーツを使ったパフェ、という文句に心は踊る。
「この桃……固いね！　カリっとしてる」
「そうだね、寝子島ではもっと、とろっとした桃だよね」
　そう答え、絢は歯ごたえ抜群の桃をサクサクと楽しむ。
「ふー、ちょっと食べ過ぎちゃったかな。この店で三軒目だもんね」
　お腹をさする友人と、美味しいから仕方ないよね、と笑いあう。写真を撮っていると、友人が驚きの声を上げた。
「うわー、あの子すごいな。ジャンボ桃パフェにスペシャルパフェ、桃ジュース注文してる」
「よくお腹に入るね、私たちと同じ高校生なのに」
　２人の声に、絢が視線を動かすと、そこにはショートカットの少女が幸せそうにパフェを食べている。
　見た目は名家のお嬢様然としているが、みるみるうちに３つの容器は空になってしまった。
「うーん、本当によく食べるお客さんだったねぇ」
　会計を終えて店を出る彼女を見送った店主が、感嘆の声をもらす。
　絢達はしばらく、自分のパフェを食べる事を忘れたのだった。