夏の林間学校、いざゆかん歴史と美食の郷！｜リアクション

夏の林間学校、いざゆかん歴史と美食の郷！

　――僕を騙していたのか！？
　――ハハッ、騙される方が悪いんだよ！　せいぜい、お優しいご主人様に買ってもらえることを祈るんだな！
　――ま、待て！　奴隷だなんて、そんな事のために僕は……！

　傭兵の募集に応募したつもりが、奴隷船の檻に閉じ込められ、主人公がくずおれるシーン。
　想花はぐっと歯を食いしばった後、ため息をついた。
「やっぱりな。世間知らずの人工生命体なら、こういう展開もありか」
　朝一番で食事もせず、想花が夢中になっているのは新刊のライトノベル『その牙は誰がために』だ。
　生体兵器として生み出された主人公が、自らの力におののき、研究所を逃げ出すところから始まる成長物語である。
「うーん、この後は、奴隷船で誰か導いてくれる人に出会うも途中で亡くし、その人の家族を守るために、忌まわしい力を自分の意思で使うようになる……とかかな？」
　しおりをはさんだ想花は木陰の椅子から立ち上がり、ぐぐっと伸びをした。

◆

　同じ頃、別の木陰では碧南が読書にどっぷり浸かっていた。

　――私の想いも、雪みたいに溶けてしまえばいいのに。
　
「っはぁっ……！　いいのよイチカ、もうあなたは幸せになるターンなの！」
　ヒロインの胸中に、ハンモックの中で身をよじる。
　碧南が読んでいるのは、乙女ゲー『白雪の宿痾』のノベライズ作品である。
　雪が文明を侵し、緩やかに滅びゆく世界。唯一雪を溶かす力を持って生まれたのが、主人公のイチカ（名前変更可能）だ。
　生まれてから１７年。世界のために雪を溶かすことしか知らなかったイチカはある日、自らの能力は命と引き替えだという真実を、侵入してきたテロリストに知らされる。

（心優しい幼馴染みの生きる世界を守るため、命を削って雪を溶かすイチカ……でも『お前だけが代価を払うなんて間違ってる！　俺と来い！』ってテロリストに言われたら……はぁぁ～！）

　身もだえする度にハンモックがぶらぶらと揺れ、後輩達は心配したが、碧南は全く気づかなかった。

◆

　読書といっても、別に小説ばかりではない。
　修などは早起きして、焚き火のそばで日本史の参考書を開いていた。
「あっ、修君たら。スキあらば勉強してる。キャンプなのに」
「あぁ、いや……ちょっと会津の歴史に興味がわいてね」
　通りかかったあおいのお叱りを受け、暖かな席をすすめる。
「この前、介護の本を買ってたな。進み具合はどうだ？」
「それがね、言葉が難しくて辞書引いてばかりなの」
　少し疲れた風の彼女に労りの言葉をかけ、焚き火を調節する。
「２人して勉強の話なんて、受験生みたいだ」
「ふふっ、私たち受験生だよ、修君」
「……そうだったな」
　修は微笑み、コーヒーを一口飲んだ。

◆

　日向は、林間学校終わりの朝を名残惜しい想いで迎えた。
　鳥のさえずりと、木漏れ日が気持ちいい。
　キャンプの後片付けをした後、友達に「ひとっ走りしてくる」と告げる。どこへ、と聞かれてこう答えた。
「林間学校が終わるのが寂しくて、少しでも長く居たいんだ」
　キャンプ場内の細い道を走りながら、その昔会津に暮らした人々を想う。

　――すると、日向のろっこん『瞬きの時かけ』の効果で、周りの光景が変わっていった。
　
　鶴ヶ城が建築中の頃は、材木や石を積んだ荷車が行き来し。
　戦火に包まれた城下町を見つめる人々の顔はすすで汚れ、一筋の涙が流れた。
　日向は通過するだけで、何もすることは出来ない。
　だが、当時の人々を見るだけで、気持ちは穏やかになってゆく。
　立ち止まると、周りの光景はキャンプ場のそれに戻った。

（……こうやって巡っていくんだね。僕も、僕の後に続く子供達のために、胸を張れる人にならないとな）

　戊辰戦争の頃と変わらない太陽を見上げてから、日向は踵を返した。

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あとがき

担当マスター：陣杏里
ファンレターはマスターページから！

皆様、こんにちは。
『会津は遠い昔に林間学校で行ったきり』の陣　杏里です。

今回は色々な選択肢をご用意しましたが、割と程よくばらけて頂きまして、ありがとうございます。
美味しいもの、歴史に馳せる想い、切ない思い出、ギャグなＡＣも楽しく拝読いたしました。
皆様に楽しい林間学校をお過ごし頂ければ、望外の喜びです。

ご参加下さった方、お読み頂いた方、どうもありがとうございました。

失礼します。

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