夏の林間学校、いざゆかん歴史と美食の郷！｜リアクション

夏の林間学校、いざゆかん歴史と美食の郷！

「戊辰戦争も終盤に差し掛かり、会津藩は一ヶ月の籠城に耐えましたが、前沢藩の勧めで降伏の道を……」
　ガイドの声を聞きながら、佐藤英二は鶴ヶ城を巡っていた。

（ここで戦った人たちは何を想って、何を守る為に立ったんだろう）

　厳粛な面持ちのまま、スマホで城の画像を撮る。
　会津の城下町炎上を目撃し、「もはやこれまで」と命を絶った――というのが、語られている白虎隊の悲劇だ。

（白虎隊の人って、僕と同じ年だったんだよな。今の時代にいたら、どうしてただろう）

　周りでは英二の同級生たちが、記念撮影で盛り上がったり、抹茶とお菓子で休憩したりしている。
　戦火に想いを馳せる英二は、蝉の声を聞きながら、しばらく鶴ヶ城を見上げていた。

◆

「青山ちゃん、私たちを撮ってくれない？　お願い」
「うん、いいよ」
　青空を見上げていた青山絢は、級友の声に我に返り、応える。
　手にしたデジカメで、構図やアングルを変えて何枚か撮影。
「後でスマホに送るね」
「ありがとう！　青山ちゃん、カメラも本格的だし、写真うまいね！」
「当たり前じゃない。絢ちゃんのお父様はプロの写真家なのよ。自撮りばかりしている人とは、ＤＮＡからして違うんだよねー」
「ちょっと、なんで私のこと見るのよ、自撮りばかりしてるのはアンタも同じでしょ！」
「ちょ、二人とも、喧嘩はやめよ、ね？　あっちに戦火を免れた茶室があるんだって。行ってみない？」
　級友を誘って歩きながら、絢は過去の痛みを思い返していた。
　彼女の言葉通り、絢の父親は高名な写真家だ。もちろん写真は教えてくれたし、自他共に認める写真家の卵……だった。

（あんなことさえなければ、今だってきっと……）

　重く冷たいデジカメと共に、写真の腕を見込まれた絢は記念撮影のリクエストに応えている。
　頼まれたら断れないから、撮影して回っている。

「今度は青山ちゃんもお城バックに一枚いこうよ！」
「いいねぇ、あたしは廊下橋で絢ちゃんと映りたい。朱色が石垣に映えてキレイなんだよー」
　級友のすすめで、笑顔を浮かべて被写体になるのも何回か。
「それにしても今日、暑いね」
「そうだねぇ。福島とはいえ、８月ともなると日差しがきつい」
　木陰で休憩する絢の言葉に、級友もぱたぱたとパンフレットで顔を仰いだ。
　暑さのあまり食欲でないかも、と絢がこぼすと、もう一人の級友は笑顔でガイドブックを広げた。
「まーまー、暑さのあまり冷たいもの食べたくなるかもしれないし。青山ちゃんも桃スイーツ楽しみにしてた
じゃん」
　絢はこくりと頷き、煌びやかなスイーツの写真を見て、品定めを始めた。

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