夏の林間学校、いざゆかん歴史と美食の郷！｜リアクション

夏の林間学校、いざゆかん歴史と美食の郷！

　灰色の瓦に金文字の看板、太い柱に茶格子の丸窓――堂々たる門構えの日新館を前にして、光村日向は一歩引いて全体を見上げた。
「日新館、幕末か」
　当時を再現した建物の趣に、身の引き締まるものを感じつつ見学。
「えーっと、会津藩士の子弟は１０歳から入学する決まりで……」
　子弟が論語を読み上げる素読所を人形で再現した展示を見ながら、日向は自分がここにいたらどんな生徒だったろう、と想像した。

（白虎隊を考えると、やっぱり現代に生まれて幸運だったなって思う。でも、教えは厳しくて見習うものも多そうだし……いいなぁ、何か着物を着たくなっちゃった）

　お土産屋さんで買おうかと探していると、水練水馬池に差し掛かった。
「日本最古のプール？　日新館の生徒が伝統泳法を練習する場所か」
　説明に『鎧兜をつけたまま泳ぐ訓練もあった』とあるのを見て、沈まないで泳げるんだと日向が感心していると。
「武装したままか……。日本の甲冑は西洋の板金鎧より可動域は広そうだし、泳ぐことも可能なのかも。やっぱり、実際に現地へ来てみると違うなぁ」
　傍らから聞こえる呟きに視線を向けると、ショートボブの少女がいた。日向と同じ制服姿の月原想花だ。
「日新館を元ネタに、王国学院の設定を固めよう……今のうちに資料を集めて、帰ったら一気に書き上げるんだ。『小説を書こう』に投稿しないと」
　撮影とメモを終えた想花は、そんな事を呟きながら、満足そうに微笑んだ。

（うーん、『小説を書こう』って前友達に勧められた小説投稿サイトの名前だ……小説を書いてる人なのかな）

　特について歩くというわけではないが、見学順路は同じなので、必然的に彼女の呟きが聞こえてしまう。
　孔子を奉る講堂に差し掛かると、目を輝かせてペンを動かしている。
「王国学院で奉っている神は、その昔学長を救ったケンタウロス、ということにしよう……」
　熱心なメモっぷりに、日向も感じ入るところがあった。

（僕が走ることが好きなように、彼女は書くことが好きなんだなぁ。取材の人脈とかがあったら……水練を教えてくれそうなプロとか、教えてもらえないかな）

　災害時に役立ちそう、と水練に興味がわいた日向だったが、体を鍛えるプロの当ては無いのだ。

　そうこうしているうちに、土産物店に到着。
「良かった、さっきの素読所にいた人形と似てる浴衣がある。デザイン一緒のＴシャツやパーカーも」
　自分用に買おうか、家族のお土産はどうするかと考えている日向の横で、想花は品物を手にとって『王国学院には制服作るべきか否か』について悩んでいるらしい。
　――が、その思案はすぐに打ち切られた。
「ちょっと、月原さん！　一人で行かないでよ！　心配するじゃない」
「い、委員長……いやあのコレは」
「さっき鬱展開がどうのって言ってたわよね。マンガの話させるとどこまでも行っちゃうんだから。さ、帰りましょ」
「いや、マンガでは無くて！？」
　日向は何も言えず、三つ編みの少女に連行される想花を見送る。
「委員長は……事故死した兄の代わりに、王国学院の門を叩く双子の妹にしようかな……」
　たくましくメモする想花に、日向は心の中で拍手を贈ったのだった。

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