夏の林間学校、いざゆかん歴史と美食の郷！｜リアクション

夏の林間学校、いざゆかん歴史と美食の郷！

「はぅっ……恥ずかしい」
　林間学校に出発する新幹線のホーム。
　相原まゆ先生が周りの生徒達に檄を飛ばしているのを見て、水上桜は他人のフリをしたくなり、その場を離れようとした。
　――しかし、世の中そううまくはいかないもので。
「あっ、いたいた水上さん。あなたも『まゆ先生をなぐさめ隊』に入らない？」
　誘う友人によれば、まゆ先生は高校生に間違われたことでヤケになっており、彼女に世話になった生徒達で急遽、慰めることにしたのだという。
「うーん、まぁそういう事なら……まゆ先生には水泳部でお世話になってるし、ほっとけないからね」
「あ、ありがとう！」
　入隊を承諾した桜がホームの端の方へ行くと、ツインテールの姫神絵梨菜が手を振っているのが見える。
　数人が自己紹介をした辺りで新幹線が到着したので、作戦会議は通話アプリで続けることにした一同は、乗り込んだのだった。

◆

「鶴ヶ城、大きいっ！　綺麗なお城だねっ」
「ふふっ、日本史の勉強も忘れないでね」
　絵梨奈はまゆ先生と連れ立って歩きながら、笑顔で話しかけた。
　現地に到着した今こそ『まゆ先生をほめて自信を取り戻してもらおう』作戦を始める時だ。
「社会科は得意じゃないけど、会津はテレビドラマで見たから覚えてるんだから♪」
「あぁ、あたしも見てた」
「ほんと？　八重ちゃん、可愛いしカッコ良いよね！」
「うんうん」
　絵梨奈たちは鶴ヶ城見学の順路を進み、白虎隊の悲劇が映像で紹介されているエリアへやってきた。
　時は幕末。薩摩長州を中心とする新政府と、会津藩を含む旧幕府の戦いが、戊辰戦争だ。終盤には会津が戦場となり、この鶴ヶ城でも多くの人が命を落としたのだ。
「うぅっ……白虎隊の人たち、かわいそう……」
　１６、７歳の少年達で構成された白虎隊も、戦争の激化と共に出陣し、帰らぬ人となった。
「そうね、あなた達とそう変わらない年だものね」
　涙ぐむ絵梨奈の肩を、そっとまゆ先生がさすってくれる。
「先生ありがとう……やさしいね」
　絵梨奈の肩をそっとさするまゆ先生が、微笑んだ時。
「さすがまゆ先生、あれが聖母のよう、っていうのかな」
「慈愛あふれるってやつ？　大人だぜ」
　――という言葉が周りの生徒達からもれた。
「えっ？　ちょっとやだ、ほめても何も出ないわよ」
　絵梨奈は小さくＶサインをしている桜と目を合わせ、こくりと頷く。
　その後はもう、怒濤のラッシュである。
　絵梨奈が「私、土方歳三さんより、榎本武揚さん派だなー」と言い、まゆ先生が「そうねー、リーダーになったり投獄されたり、波瀾万丈の人生よねぇ」と言えば、生徒達は質問する流れに。
　そして、まゆ先生の答えに対し「まゆ先生は体育だけじゃないんだ」「知性派！」と持ち上げる。
「もーぅ、みんな可愛いんだから！」
　すっかり元気になったまゆ先生の後を、生徒達は笑顔でついて歩いたのだった。

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