モフれ！第３６回寝子ヶ浜ビーチ☆スターズコンテスト！｜リアクション

モフれ！第３６回寝子ヶ浜ビーチ☆スターズコンテスト！

●変化！　マイクロビキニ

　ざざん！　と波打つ砂浜に幼さと妖艶さを共存させた狐娘が高飛車な腕組みで仁王立ちしている。
　
「今日はあやかしの姿でも許される日と聞いたぞ！」

　正しくは許されるというか、怪しまれない日だが、そこをツッコむ者はいない。
　彼女の名は片夏阿呂江。齢百歳を超えるあやかしである。
　十代の少女のような人間の姿に、狐耳と束になった尻尾がトレードマークで、明るい琥珀色の髪は肩にすこし掛かっている。水着は黒、シンプルなサンダルも黒、頭にはセレブっぽい大きめのサングラスの黒。黒は、阿呂江自慢の琥珀の毛色と相性がいい。
「雑誌で見たモデルの服装を変化の術で再現してみたが……このちっぽけな布切れは『マイクロビキニ』といったか。普段は着崩すことも無い着物姿故、この様な開放的な服装はなかなか心地よいのー」
　彼女は狐妖怪の小さな集落に住む村長の娘で、父は大狐（今や眠ってばかりだが）。いわゆるあやかしのお嬢様である。だからといって古風な箱入り娘なのかといえばそうではなく、露出度の高さにも動じない自信とハートの強さを持っているようだ。そのあたりは滅多に帰らない行商人の母のほうの血かもしれない。
　左右の耳を交互に動かし、あたりの様子を探ってみる。
　阿呂江のマイクロビキニを眩しそうに見る輩はいるが、あやかしそのままの風貌を気に留める者はいない。
（耳や尻尾を消していないが今日の催しの間はこれでも良いらしい。それにしても）
　うーむ……と鼻を鳴らす。
（他の客たちも皆獣の耳や尻尾があって、人間なのか別の種族なのか見当もつかぬ……）
　ふっさふっさと尻尾を振って歩いてゆくと、実行委員だという青年が、眼鏡を光らせて近づいてきた。
「すみません、もしや『おちこぼれ姫と渚の狐娘』に出ていらっしゃる方では……？」
「は？　なんじゃそのおちこぼれ姫とやらは」
「いえ、ご存じないなら失礼いたしました」
　視線を逸らして眼鏡の蔦を押し上げたその青年は、改めて阿呂江に向き直る。
「とても素晴らしい水着です。コンテストに出ていただけませんか」
「こんてすと？」
　首を傾げると、彼はモフ・メーターがぴっかぴか光るステージのほうを指さした。
「なんじゃ、儂に出場せよと？」

　阿呂江は鷹揚に承諾した。
　ステージに案内された彼女は、大狐の娘らしくたっぷりと余裕をもって歩いてゆく。
（やたら殿方からの歓声が大きい気がするが、人間はこのような水着は着ないのかのぉ？）
　訝しみながらもマイクの前に立つ。たしかこのあとは、自分のことを紹介するようにと言っていた。

「霊界より来た狐のあやかし、片夏阿呂江じゃ。
このモフモフ尻尾は飾りではないぞ。
毎日手伝いの狐達が３人がかりで櫛を通して手入れしておるからな。
水着が装飾の少ないものを選んだのも尻尾を引き立てるためじゃ！」

　そう言い放つと、阿呂江は観客側に背を向けてモフモフ尻尾を振ってアピールする。
　観客席で密かに人間のふりをして潜んでいたあやかしたちは「しょ、正直すぎる」と冷や汗をかいたが、そんなことは阿呂江の知ったこっちゃない。むしろ、ふつうの人間たちは堂々とした阿呂江の姿に「そういう設定なんですね」と理解顔である。
「目標を叫ばせてもらうぞ」
　観客の反応に構わず、阿呂江は続けた。

「儂は村一番の変化の術使い、じゃが、いつか霊界一になってみせるのじゃ！　モフーーーー！」

　大きな歓声があがり、応じてモフ・メーターも勢いよく金色色に光り輝く。
　ステージを下りた阿呂江は大きな満足感に包まれていた。
「終わったのじゃ。本物みたいとかすごい造詣とか言われておったが儂、狐の格好をした人間と間違われてたかの？」