モフれ！第３６回寝子ヶ浜ビーチ☆スターズコンテスト！｜リアクション

モフれ！第３６回寝子ヶ浜ビーチ☆スターズコンテスト！

●ダマスカスブレードちゃん可愛い

　１５才ほどの褐色の肌をしたエキゾチックな風情の少女が海を前にはしゃいでいる。
「御主人様、御主人様。見てください。海というのは大きい水たまりですね」
「水たまり、というか、海は地球を覆っている水の膜……といえばいいかな。どこまでも続いてるんだ」
「どこまでも、ですか。いったいどなたが作られたのでしょう？　御主人様ですか？」
「まさか。海は海。誰も作ってないよ、ダマスカスブレード」
　ダマスカスブレード。
　不思議な名前だとお思いだろう。
　それもそのはず、彼女はサキリ・デイジーカッターが所有する、製法が失われた刀剣の付喪神だ。

「御主人様。これは何でしょう？　あれは？」

「それはたこ焼き。あっちのは海鮮丼っていって、魚やエビなんかを乗せたご飯だよ」
　物珍しそうに見て回るダマスカスブレードちゃんに付き添って、屋台を巡り、食べ歩きなどに付き合うサキリはすっかり引率のお兄さん気分である。
「あちらでは何が？　賑やかでピカピカしています」
「ああ、水着コンテストが開かれているみたいだね」
　そのときは出場することになろうとは思いもしなかったのだが、ダマスカスブレードちゃんの踊り子めいた普段着が水着のように見えたのだろう。実行委員に指名される羽目になった。
「私が出るのですか？　しかも、もふもふ？」
　目立つのは嫌いではないので、好奇心で出場してみようかと乗り気になったが、もふもふとは……。切れ味鋭い刀剣の付喪神がもつ性質とはわりと真逆である。
「心配ないよ、ダマスカスブレード。猫鳴館にあった熊の着ぐるみを取ってくるから待っていて」
　寝子ヶ浜海岸から猫鳴館まではそれなりの距離がある。
　しかしサキリにとっては、さして問題にはならない。
　人目を忍んで物陰に隠れると、サキリは＜斬空赤刃＞を発動させ姿を消す。高速連続転移であっという間に猫鳴館まで戻ると、物置にあった熊の着ぐるみをひっつかんで、大急ぎで戻ってくる。
「はぁ、はぁ、これを、着て……」
「御主人様、息が……」
「さすがに、疲れたけど……大丈夫。僕は会場で見守っているからね」

　ダマスカスブレードちゃんは全身を熊の着ぐるみの中に押し込んで、もふっもふっとステージに出た。
「もふー、もふー、……とか言うんでしたっけ？」
　むさい熊かと思いきや、中から可愛らしい声がするので会場は期待にざわつく。
　熊はおもむろに着ぐるみをぬぎ、中から引き締まった体の少女が現れた。
「あっつぅい……！　あっ、最近寝子島に来ましたダマスカスブレードです。趣味は歌と踊り、特技は……切ったり刺したりすることでしょうか。こちらのことはまだよく解らないですが御主人様と一緒に怪物とか倒したりするのでよろしくお願いします」
　何を言っているか分からない部分もあるが……。
　か、わ、い、い！！
　拍手と口笛がとぶ。
「それでは踊らせていただきます」
　ダマスカスブレードちゃんは、アラビア風の音楽とコブシの効いた謎の外国の歌に合わせて、身軽に舞い、腰をくねらせ、けっこう堂に入った官能的な踊りを披露した。
（御主人様……！）
　会場にいる、大好きな銀髪の少年に笑顔で手を振る。
「今俺に手を振ったぞ」
「いや、俺だ！」
　男性たちが虜になってゆくのが分かって、サキリは苦笑を禁じ得ない。

「いかがでしたでしょうか？」
「素晴らしかった。君のファンが一気に増えたのは間違いないね」
「まあ！　御主人様、嫉妬してくださいます？」
「嫉妬はしないよ。だって……」
　断ちがたい特別な絆が、ふたりにはある。
　敢えてそれを言葉にはしない。
　しないけれども通じるのだ。
　ダマスカスブレードちゃんは嬉しそうに破顔して、サキリの後ろをついていく。