怪異は招く｜リアクション

怪異は招く

　カーブミラーに寄り添うようにして鶴見五十鈴が佇む。曜日に関係なく古めかしいセーラー服を着ていた。
　右手から車の排気音が聞こえる。五十鈴は横目を向けた。数秒で赤いオープンカーが現れた。若い男女が乗っていて髪を靡かせる。
　目立つことを嫌った五十鈴は道幅の限界まで下がった。一言も発さない決意で口を結ぶ。
　オープンカーは赤い風となって目の前を通り過ぎた。
「なんだ？」
　疑問を口にした男性がトンネルの手前で停車させた。
　助手席にいた女性が長い髪を掻き上げて片耳に載せる。
「なんで停めたの？」
「サイドミラーに人影が見えたんだよ」
　男性はシートベルトを外した。僅かに腰を浮かせた状態で後ろを振り返る。
　五十鈴と視線が合った。
「おかしいな」
「ヘンなのは達也だよ。誰もいないし。もしかして霊感ってヤツで見えたりした？」
「昔ほどではないが、そうかもな。大体の場所はわかるし、ちょっと試してみる」
　男性はスマートフォンを片手にオープンカーから降りた。カーブミラーに近づいてレンズを向ける。
　五十鈴は写らないように小走りで対向車線へ移動した。
　男性はすぐに画像に目をやる。
「何も写ってないか」
　言いながら周囲にカメラを向ける。五十鈴は走り回って避けた。
「気のせいかもな」
　納得した男性はオープンカーに戻った。赤い風となってトンネルの中へと消えてゆく。
　見届けた五十鈴は表情を緩めた。
「危ないところでした」
　茶色の瞳はトンネルを見つめる。考え込むような顔でぽつりと呟いた。
「トンネルに隠れていれば見つからないのでは……」
　五十鈴は幽霊らしくゆらゆらと歩き、トンネルの暗がりに溶け込んでいった。

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