鶴見 五十鈴は緩やかなカーブの辺りに立ち、茶色い瞳で近くのトンネルを眺めている。黒髪は長く、先端は腰に届いていた。
突然の横風を受けても五十鈴には何ら影響を与えない。真夏の日差しを受けた肌は白く、冷ややかな状態を維持した。
「……幽霊ですから」
誰に聞かせるでもない声で呟く。年代物のセーラー服の赤いリボンを軽く指で摘まむ。
何とはなしに少し歩いてみた。暗いトンネルの中を無音で進んだ。
中程で足を止めた。見えない壁に当たったようにどこか不自然で、くるりと向きを変える。元いた場所に戻ると二人の青年を見掛けた。手にしたデジタルカメラで周辺の写真を撮っている。
「またですか」
五十鈴は少し呆れた声で歩いていく。レンズの正面に立ち、にこやかな顔でピースサインを作った。
デジタルカメラを持った青年は、早速、画像を調べる。
瞬間、顔色が変わった。
「お、おい、噂はマジだ! ここはヤバイぞ!」
「な、なんだよ。急に大きな声を出すなよ」
「これを見ろよ!」
青年は一枚の画像を見せた。目にした一人は目を剥いた状態で震え出す。
「黒い人物じゃないか。胸の辺りが赤いが、まさか血!?」
「絶対、落ち武者だよ! 刑場跡地も近いし!」
「や、やめろよ。怖くなるだろ」
画像を撮った青年がいきなり走り出す。
「待てよ!」
遅れてもう一人が追い掛けた。二人は後ろを振り返らず、全力で逃げ帰った。
五十鈴はリボンを軽く指で弾いた。
「このような愛らしい落ち武者はいませんよ」
微笑を浮かべて言った。
茶色い瞳は再びトンネルを眺めた。表情にやや硬さが見られた。
「でも、トンネルにはいます。私のような地縛霊ではないものが……」
その言葉は誰の耳にも届かない。
好奇心が勝った人々を今日も怪異は招き寄せる。
今回のシナリオは暑い夏に相応しい、ひんやりした幽霊の話になります。
詳しい説明に入る前に鶴見 五十鈴さん、シナリオガイドへのご登場、ありがとうございました。
本シナリオにご参加された場合、ガイドに縛られず、自由にアクションを綴ってください。
早速ですが以下をご覧ください。
●〇● 今回の舞台 ●〇●
寝子島にある市道で緩やかに曲がっている。近くにはトンネルがある。
よく晴れた日曜日もあって噂の幽霊スポットに訪れる人は意外と多い。
●〇● トンネル内部 ●〇●
全長は百メートル程で道に従って少し曲がっている。道の左右には狭いながらも歩道が設けられていた。
明かりは弱く、やや薄暗い印象を与える。壁からは水が染み出していてその影響で黒ずみ、
苦悩の顔や絶叫を上げている人物に見える。時に上から水が滴り、人々を脅かせることも。
●〇● 怪異 ●〇●
トンネル内部に潜んでいる。視認することは難しく、霊感の強い者でも姿形をはっきりと捉えることはできない。
怪異の目的は不明。人々に甚大な被害を及ぼすようなことはしない。
子供の悪戯の範疇で人々を驚かせる。その行動からどこか楽しんでいるように感じられることも。
悪戯の内容
1:動く染み 黒ずんだ壁の染みを動かすことができる。僅かなので気づかない者もいる。
2:落ちる滴 訪れた者の首筋に冷たい滴を落とす。成分は水なので身体に害を与えるものではない。
3:小さな音 小さな音を立てる。アレンジとして微かな笑い声や泣き声を混ぜることもある。
4:短い言葉 訪れた人の耳の近くで呼び掛ける。中性的な声で「ねえ、もし、おい」等と使い分ける。
5:人による PCの苦手なものを察知して表現する(犬の吠え声、蚊の羽音、ゴキブリの走る音など)。
説明は以上になります。トンネル内部に潜んでいる怪異の目的はよくわかっていません。
成仏を望んでいるのでしょうか。妖怪の類いなのでしょうか。知ろうとすることはできますので、
行動によっては目的が薄っすらとわかることもあるかもしれません。全てはアクション次第ということで!
暑い夏に涼しげなシナリオはいかがでしょうか(ご参加、お待ちしています)。