異世界転生・ギガンティックバトル｜リアクション

異世界転生・ギガンティックバトル

【百合】

　自身の乗機――リリー・S（シスター）に続くハンガーの前で、雨崎楓香は、医官の秘月と押し問答を繰り広げていた。
「無茶だ！　今のきみは出撃に耐えられる身体じゃない！」
　毅然とした態度で秘月が首を横に振るのは、ある意味で当然だ。楓香は前回のビーストとの戦闘によってかなりの重傷を負っていたのだ。
　それに、何よりも『リリー・S』は、本来二人乗りのハンターだった。
　が、今、この場にもう一人いるべきパイロットの姿はなく、それでは本来の力を半分も発揮できない。殺されに行くようなものだ。
　だが、楓香はそんなことはお構いなしに、出撃許可を懇願する。
「一人でもAIがあれば戦えるわ！　お願い！　あたしを行かせて！」
　そこで、じわりと楓香の目じりに涙が浮かぶ。
　楓香は転生前の記憶をなくし、ビーストと戦うために努力を重ねてきたという設定になりきっているために、瞳の意思の強さが違う。
「今、あたしが行かないと妹のやってきたことが無駄になっちゃう！」
「……っ」
　楓香のその言葉に、頑なだった秘月の態度がわずかに揺らぐ。
　前回の戦いの後、彼女の妹は――。
「だけどっ……！　今のきみの身体では、あの超大型ビーストを相手になんて……」
　そのとき、秘月の片耳のイヤホンに音声が入る。
『卵城医官。指令室より入電です』
「なにっ？　今、取り込み中……」
『そ、それが、教官が楓香さんを出撃させろと……』
「なんだって！？」
　目を見開く秘月に、楓香は顔をぱっと明るくする。
「ほら、荒太郎もそう言ってるじゃん！　お願い、卵城さん！」
「……わかったよ。だが、そのまま行かせるわけにはいかない。それでは、きみを犬死にさせるだけになってしまうからね」
「え？」
　キリリと秘月が眼鏡のブリッジを持ち上げれば、それに呼応するようにリリーに被せられていたシートがめくれあがる。
「え？　こ、これって……」
　そこにあったのは楓香の知るリリー・Sではなかった。
　聖女に中世の城という基本的なデザインは踏襲されているものの、肩や背中にいくつか追加装甲が加えられ、全体的に女性っぽくなっている。
「先の戦闘で大破したリリー・Sを強化した改良型――リリー・ベッド・インだ」
「……ベ、ベッド・イン？」
　唐突かつ意味深な単語に、楓香が頬を赤くする。
「ふふっ。私も卑猥だと反論したんだけど、百合に賭けるというコンセプトに合致する名前はこれ以外にないと押し切られてね」
「……い、色々と嫌すぎるっ！？　で、でも、名前はともかく、このパワーアップしたリリーなら！」
　妹の無念を晴らせるかもしれない。そう思った。
「ありがとう、卵城さん！　あたし、行きます！」
「うん。でも、約束して。必ず生きて帰ると――っ！？」
　そのとき、戦闘の余波を受けて、基地の建物が大きく揺れた。
「えっ？」
「あっ？」
　ぐらり、と足場が揺れた拍子に、秘月は楓香を巻き込むようにしてLBMのコックピットに倒れ込んでしまう。
　LBMのコックピットは、どういうわけかダブルベッド風に改修され、絵面的には秘月がいかがわしいホテルで楓香を押し倒しているようにも見える。
『コックピット内に二名の生体反応を確認。一名のスーツ未装着と、一名のスーツの未アップデートを検知。パイロットの安全を優先し、新型パイロットスーツの強制換装を開始します』
　コックピットに設えられたスピーカーから機械的な合成音声がアナウンスされる。
「え？　ちょっと待って、私はパイロットじゃ……」
　瞬間、どこからともなく数台のロボットが現れ、二人の服を無理やり剥ぎる。
「あ、だ、だめっ……。下は何も着てないから――きゃああああっ！？」
　こうして、なかば無理やりに二人はピチピチパツンパツンの新型スーツに着せ替えさせられ、戦場に放り出されることになる。