異世界転生・ギガンティックバトル｜リアクション

異世界転生・ギガンティックバトル

【希望】

　その様子を、指令本部に設置された巨大モニターで、雨崎荒太郎は見つめていた。
（……できる。だが、まだ甘い）
　荒太郎は、転生前の記憶が薄れ、この世界での設定――A.B.Iの鬼教官になりきっていた。
「雨崎教官。どうですか、彼女達の腕前は？」
　後ろから声をかけてきたのは、同じく設定になりきっていた八神修だった。
「君はどう思う？」
「俺ですか？　一科学技術担当としての意見を言わせてもらうなら、彼女達の操縦は充分に及第点です」
　修は、私情を挟まずに、淡々と意見を述べる。
「君は優しいな。私なら及第点はやれん。ただ動かせるだけでは足りない。機体の性能を120%引き出す技能が必要なのだ」
「……ですが――」
　そんなことは普通の人間には不可能だ。
　と、そのとき。
「ですから、私の開発した強化システムを使ってくださればよろしかったのに」
　シュンッと自動ドアの開く音がして、一人の女が指令本部に入ってきた。
「……エインズワース博士」
　修は、その声の主――エレノア・エインズワースの姿に気づき、わずかに顔をしかめた。
（……彼女は危険だ）
　何故かはわからないが、修は自身の勘がそう言っているのを感じていた。
「エインズワース博士。君のシステムには感謝してる。だから、私も、いくつかの機体への採用を許可した。だが、まだ試験が終わっていないシステムを全ての機体に導入することはできん」
　荒太郎はモニターから視線を離さずに言う。
「あら、信用がないのですね。悠長なことを言っている間に、人類が滅びなければいいのですけど♪」
　クスクスと笑うエレノアの声音は、まるでそれを望んでいるようにも聞こえる。
　と、そのとき、司令部に大きな警報音が響きわたる。
「どうした？」
「……は、はい！　敵襲！　新たなビースト――それも超大型タイプが出現します！」
「……なん……だと……？」
　愕然と目を見開く荒太郎。
　その瞳の向こうで、モニターには全長3ｍを越す漆黒の獣人型ビーストが姿を現した。
「あらあら？　いよいよ人類滅亡のカウントダウンが始まったのかもしれませんね」
　それに、修は構わずに
「……教官。ご指示を。人類の命運はあなたの指示にかかっています」
「……やむをえん。強化システムを導入した新型を――」
　と、そのとき、モニターに緊急通信が割って入る。
「……あ、雨崎教官！　た、大変です！」
「今度はなんだ！？」
「は、はい……！　療養中のパイロットが病室を抜け出して、格納庫に向かっています」
「……なに？」
　荒太郎は片眉だけをピクリと持ち上げる。そんなことをする人物を彼は一人しか思い当たらなかった。彼の妹だ。
「……雨崎隊員か」
　ぽつり、と呟く荒太郎の背中が、修には小さく震えているようにも見える。
「……教官。彼女はまだ治療中です。それに――」
「……構わん。出撃させろ」
「え……？」
「あらぁ？」
　目を見開く修と、楽しそうに柳眉を動かすエレノア。
「……む、無茶です！　そんなことをすれば――」
「私が構わんと言った！」
「……っ」
　有無を言わさぬ口調で言われれば、部下である修は黙るしかない。
　そんな二人の背中を見つめ、エレノアは、ひとりクツクツと邪悪な笑みを浮かべていた。

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