南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！｜リアクション

南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！

「ビーチ・フラッグスって、やった事ないかも？」
　観戦していた恵御納夏朝がぽつりと口にした。隣にいた恵御納夏夜は記憶を辿るような顔付きとなった。
「僕も今回が初めて、かな」
「ちょっと心配になるよね」
「でも、やるからには本気だね。もちろん相手が夏朝でも勝ちにいく」
　夏夜の穏やかな決意に夏朝は笑みを見せた。
「僕だって本気だよ。夏夜ちゃんと一緒の組になっても手は抜かないんだから」
　荒れた砂浜をならして競技は再開された。
　次々と名前が呼ばれる。その中に夏朝と夏夜が含まれていた。
「夏夜ちゃんと同じ組になるなんて」
「夏朝、忘れてないよね」
「もちろん本気でやるよ」
　最後に姫神絵梨菜の名が告げられた。スタートラインに向かいながらにこやかな顔で言った。
「私、ビーチ・フラッグスってやったことないんだよね」
　耳にした夏朝は横切ろうとした絵梨菜に声を掛けた。
「実は僕もなんだよ」
「夏朝ちゃんと同じね。もしかして夏夜ちゃんも？」
「そうだけど、やるからには全力だね」
「私だって負けないよ。日頃から中国武術で鍛えているし、反射神経とスピードにはちょっと自信があるんだからっ♪」
　軽く片膝を上げて発達した太腿をパンと叩いて見せる。
　夏朝は思わず、身を縮めた。横目にした夏夜は励ますように背中をポンと叩く。
「強敵が相手なら僕も夏朝も燃えられる。良い勝負をしよう」
「お互いにね」
　全員が揃って腹這いの姿となった。
　笛の音で一斉に立ち上がって走り出す。フラッグを求めて多くの女子が手を伸ばした姿で滑り込んだ。
　一人は飛び込む間もなく敗退した。
「やったよ、夏夜ちゃん！」
「僕も取れた」
「私もね」
　絵梨菜は笑顔でフラッグを振った。
　その後も競技は続けられた。フラッグの数は二つとなった。夏朝と夏夜が揃って残る。最後は絵梨菜で周囲の声援に応えて宙返りを披露した。
　砂浜に静けさが戻る。三人は腹這いの姿となった。
　幸太はホイッスルを咥えた。タイミングを計るような間を挟み、笛を鳴らした。
　三人は素早い動きを見せた。脚力で勝る絵梨菜が僅かに前へ出た。夏朝は狙っていたフラッグを諦めて他方へと目を向ける。夏夜との直接対決となった。肩が当たった状態で二人はほぼ同時に頭から飛び込んだ。
「僕の勝ちだ」
　砂塗れになった夏夜はフラッグを掲げた。負けた夏朝は清々しい顔で立ち上がる。
「負けた僕は夏夜ちゃんを全力で応援するね」
「力になる。ありがとう」
　夏朝が差し出した手を握る。引っ張り上げられた夏夜は太腿を軽く叩いた。次の戦いに備える。
　絵梨菜はスクール水着に付着した砂を手で払う。
「水着の中まで砂が入っちゃったよぉ」
　情けない声で水着の一部を引っ張って軽く跳んだ。
「決勝を始める」
　幸太の一言で残った二人はスタートラインに戻った。腹這いの姿勢になると夏朝が声の限りに叫んだ。
「夏夜ちゃん、頑張れ！」
　その熱意が他の観客にも伝わって激しい応援合戦が始まった。数秒後、幸太が手で制した。
　緊張感が伴う静けさの中で二人は耳を研ぎ澄ます。
　その中、笛の音が高らかに響く。立ち上がる速度は夏夜が勝った。フラッグに向けて走り出すと半ばで絵梨菜が横に並んだ。
　夏夜が先に跳んだ。右手を思い切って伸ばす。僅かに遅れて絵梨菜が砂地を蹴った。同じように手を伸ばしたが夏夜に分がある。
「それなら！」
　鋭い前蹴りを放つ。手よりも長い脚を活かし、フラッグを親指の間に挟んだ。
　夏夜は何もない空間を握って倒れ込む。
「取ったよ！」
　絵梨菜は前後開脚の状態で叫んだ。フラッグを握った足を左右に振った。その状態で顔を幸太の方に向ける。
「手じゃないけど、良いよね？」
「見たことはないが、そうだな。勝者は姫神とするが恵御納は敢闘賞として特別メニューを贈ろう」
　割れんばかりの拍手が起こった。夏夜は立ち上がると柔らかい表情になった。
「負けたよ。その脚は本物だね」
「脚癖が悪くて師匠にはよく怒られるけど、今日は助かっちゃったよ」
　開いていた脚を閉じた。立位の姿でフラッグを手に持ち、周囲に向けて大きく振った。
「良かったよ！」
「凄かった！　おめでとう！」
「みんなの応援のおかげだよっ！　ありがとう！」
　絵梨菜は笑顔を振り撒く。交流を経て特別メニューの話になった。
「もちろん『南紀みかんアイスパフェ』で！」
　ツインテールと胸を弾ませて最高の笑顔で言った。
　夏夜は控え目に刺身を希望した。
「夏夜ちゃん、おめでとう！」
　夏朝の元気な声に夏夜は顔を綻ばせた。

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南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！

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