南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！｜リアクション

南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！

　白熱する競技を羽生碧南は微笑みを浮かべて見ていた。見応えのある競り合いには惜しみない拍手を送る。時に起こる緊張感を心から楽しんだ。茶色いボブカットを左右に揺らし、愛らしい顔で精一杯の声援を放つ。
　その中、碧南の順番が回ってきた。急に表情が引き締まる。愛らしさは微塵もなく、百八十センチの身長は誰にとっても高い壁としてそそり立つ。証明するようにフラッグを次々に獲得していった。
　高い身長でいながら俊敏で、しかも手足が長い。走れば誰よりも歩幅は広く、他の追随を許さない。
　危なげなく決勝戦となった。相手は陸上部でハードルの選手であった。碧南の背丈には及ばないが百七十を超えて見える。
　どちらも勝利を信じた顔付きで腹這いの姿勢を取った。
　スターターの幸太は両者を見やり、笛を咥えた。
　笛の音を聞いた直後に二人は立ち上がる。振り返る速度はほぼ同じ。碧南は身を低くして走り出す。逆に相手は姿勢を正し、腕を振って走った。
　競技を繰り返した砂浜は荒れていた。大小の波が入り乱れる。その波を碧南は踏み付けた。しっかりした体幹はバランスを崩すことなく、一直線にフラッグへと迫る。
　相手は上体がぶれた。思ったように速度に乗れず、前へ倒れる格好で手を伸ばす。
　フラッグが消えた。碧南が奪い、滑るようにして止まった。
「やったね！」
　明るい笑顔で無邪気に喜ぶ。勝者を讃える拍手が方々から送られた。
　幸太は拍手をしながら近づいた。
「特別メニューを聞こうか」
「海鮮丼で！」
　その食欲に笑い声が混ざる。
「白浜だからね」
　碧南は朗らかに笑って競技を終えた。