南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！｜リアクション

南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！

【Ａ】初日
「なんで！？」
　自室で目覚めた仙藤蒼は急いで高校の制服に着替えた。寝癖を直す時間がない。朝食も食べずに外へと駆け出した。
　全力の走りで寝子島高校に到着。周囲に目をやったが大型バスは影も形もない。
　半ば放心した状態で蒼はスマートフォンを手にした。表示された時刻を見てがっくりと項垂れる。
　午前八時を超えていた。

　蒼の臨海学校は始まる前に終わってしまった。

　寝子島高校の生徒達を乗せた大型バスがサービスエリアで昼休憩を取った。思い思いの時間を過ごして再び乗り込む。
　程々の疲れと満たされた腹で多くの生徒が眠気を催す。窓際に座っていた楠瑠璃も同様に閉じそうな瞼で頭を揺らしている。ツインテールも心なしか元気がない。
　バスの静かな振動が心地よい。瑠璃は堪え切れずに瞼を閉じた。こつんと窓ガラスに頭を付けて深い眠りに落ちてゆく。
　大型バスは二度目の休憩を迎えた。手洗いや飲み物を求める姿が見られた。瑠璃はまだ眠りの中にいた。隣にいた女子が軽く呼び掛ける。
「楠さん、着いたよ」
　全く反応しなかった。眠り姫のように安らかな寝息を立てていた。
　女子は肩を掴んだ。軽く前後に揺らす。
「起きて。トイレ休憩が終わるよ」
「……お姉ちゃん……おはようの、チューして……」
「え、チュー？」
　女子の驚いた声でようやく瑠璃は目を覚ました。
「えっと、ここは……バスの中よね？」
「そうだけど、楠さんはお姉さんと、その、チューするの？」
「し、しないって。もう～、寝言を信じないでよ」
　足を止めていた数人が、だよね、と口々に言いながらバスを降りていった。
「私達も早く降りようよ」
　瑠璃は少し赤い顔で隣の女子を急かした。
「そうよね」
　妙な空気を振り払い、二人は揃って降りていった。

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