南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！｜リアクション

南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！

遠泳（午後）
　全生徒はホテルで昼食を済ませた。手早く用意をして再び白良浜海水浴場に戻ってきた。
「それではー、遠泳の前に最後のストレッチを始めるよー」
　部長の雨崎荒太郎が率いる水泳部は横一列となった。最初に手本を見せて生徒達が後に続く。
　青山絢は真剣な表情でストレッチに打ち込む。三年生には最後の臨海学校となる。軽く息を弾ませている間に過去の思い出が蘇ってきた。
　初めての臨海学校はこむら返りを起こして途中棄権となった。事前の練習が足りなかった。ストレッチの甘さも露呈した。
　二回目は失敗を糧にして練習に励み、自分なりのコツを掴んだ。本番でも上がらず、二キロという距離を泳ぎ切った。
「今年も」
　決意を口にした。一層、動きに熱が籠る。
　ストレッチを終えた。数をこなしてきたおかげで注意を受ける者は一人もいなかった。
　締め括りとして荒太郎は遠泳についての注意事項を挙げた。
「これから遠泳が始まるけどー、自分に合ったペースで泳いでねー。疲労を感じたら休んでもいいんだよー。あと地元のライフセーバーが協力してくれるから、何かあったら声だったり、手を挙げたりして知らせてねー」
　荒太郎は海を指差す。ボートに乗ったライフセーバーが待機している。折り返しのブイの設置も終わり、いつでもスタートできる状態になった。
　海でも服装は変わらない。ジャージ姿の吉田熊吉が全生徒に向けて声を張り上げる。
「お前ら、これから一キロの遠泳だ。気合入れていけよ。あと一斉スタートは密集して危険を伴うからな。小分けしてスタートだ、わかったか！」
「はい！」
「わかりました！」
　熱い言葉が伝播した生徒達は怒鳴り返す。
　万条幸次は話を聞きながら相原まゆに目を留めた。寝子島スポーツセンターのプールで受けた個人レッスンを思い出す。
　苦手なクロールの息継ぎを繰り返し練習した。クロールで疲れた時に使う平泳ぎも様になってきた。冬場もプールに通い、教えられた内容を思い出しながら努力を重ねてきた。
　幸次は胸の中で誓う。
　――まゆちゃん先生に努力の成果を見せるんだ。力尽きてライフセーバーに助けられる、そんな姿は見せられない。誰の助けも受けないで自分の力だけで泳ぎ切って見せる。
　目に決意を込めて海を見据える。遠くに見えるブイが少し近くに感じられた。
　教師達の声と指示で生徒達は分けられた。最初に泳ぐ一年の女子が波打ち際に呼ばれる。
　七夜あおいは見かけた後輩に声を掛けた。
「なんか自信に溢れている感じがするね」
「実は体調がいいんですよ。無理かもしれないですが、上位を狙ってみます」
「頑張ってね」
　励ましたその足で砂浜を歩く。あおいは八神修の姿を目にした。顎先に軽く人差し指を当てて海の方を静かに見つめている。
　あおいは勇気付けるような笑みで駆け出した。
「修君、怖い顔になっているよ」
「そうかな」
「そうだよ。もしかして遠泳に関係ある？」
　海のように澄んだ青い瞳を向けた。
　修は笑って誤魔化そうとした。一瞬で考えを改め、正直に心の内を話し始める。
「あおいは鋭いね。少し体力面に不安があって。遠泳は一キロもあるからね」
「大丈夫だと思うよ。修君は勉強だけでなくて、苦手な運動にも力を入れているじゃない。それに私が応援するんだから絶対に平気だよ」
　あおいはツインテールを弾ませて、その場でステップを刻む。両手でポンポンを表現して交互に片膝を上げる。
「フレーフレー、修君。がんばれがんばれ、修君。ファイトー！　どうかな。少しは元気、出た？」
「……うん、凄く。これで頑張れる」
　一気に押し寄せる感情に修は顔を赤らめた。