サイバー、下町、ほのぼの未来｜リアクション

サイバー、下町、ほのぼの未来

●ネコジマジンジャ

　ホワイトハッカーのラッセルと、情報や機械に強い修が仲間になったのち、一行は西へ移動し、ネコジマジンジャに場を移した。神域ということでサイバー化されずに千年前の姿を保っている場所だ。
　ラッセルは戦利品のＱちゃんと自分の端末をコードを繋いで、空に浮かぶ海洋生物クジラ型都市管理ＡＩに送る情報を遮断した。ただ遮断するだけだと怪しまれるので、カメラが汚れた風を装った偽の映像を紛れ込ませておく。
「ここまではただの準備運動。辿れるかはわかんねーけど大本のホストまでいけるかやってみるわ」
　首を回して一度深呼吸すると、ラッセルは唇を舐めて、表示されるコード群に集中した。
「Ｑちゃんたちの監視カメラに入りこめりゃ一気にネコジマ内の情報がつかめるかもしんねー。しっかし、こりゃあ時間かかりそー……しばらく集中モード入りまーす」
「そっちはキングスに任せる。その間にみんなに見て貰いたいものがある」
　
　修が皆を促して向かった先は、ネコジマジンジャの裏手だった。
　森の手前、何もないところで立ち止まると、おもむろに地面を指さす。
「ここに落ちているものを見てほしい。皆と出会う前に調べに来た時、見つけたんだ」
「これは―― メンマ か」
　細長い薄茶色の物体を一目見て、道哉が言い当てる。
「メンマって？」
「ラーメンの具だよ、響嬢ちゃん。タケノコで作った食品だ」
「幻のラーメン屋台はここを通ったってこと？」
「そう考えるのが自然だ」
　道哉とタルトのやり取りをきき、やはり、と修は狛猫たちの方を向く。
「一之助、二右衛門。ここに何がある？」
「そう申されましても……」
「我らは何も……」
「知らないと言うか？　俺が調べた文献によると、ここは＜三千鳥居の迷宮＞と呼ばれる空間に繋がっているようだが。クジラは――システムは何を隠している？　何を守ろうとしているんだ？　空に浮かぶクジラはヴァーチャルだろう？　本体がどこかにあるはずだ。その本体が隠している『裏』がなにかあるんじゃないのか」
「待ってください」
　割って入ったのはシオだった。
「クジラさんの陰謀説には同意しかねます。クジラさんは人々の敵ではありません。Ｑちゃん、ひいては、クジラさんを惑わしているものがあると思うのです。……それこそ屋台とか？」
　しかし、そこで議論は断ち切られた。
　森の奥から声がしたのだ。

『やれやれ。騒がせてしまったみたいだにゃ』

　愛らしくも凛とした声に呼応するように、空間が姿を変える。
　ただの森だった場所に、赤い鳥居が幾重にも並ぶ道が現れる。
「おおーい、Ｑちゃんのほう解析終わったぜ。っつっても、ぜんぜん屋台映ってなかったけどさ。とりあえずジンジャ近辺には来ないようプログラムしといた。そっちは……って、なんだこれ！」
　作業を終えてやってきたラッセルが、目の前に広がる不思議な光景をみて走ってきた。
　森の奥からまた声がする。

『三千鳥居の迷宮に入って、猫の灯篭の灯る道を辿るにゃ。待っているにゃ』

　森の中からは、ぱーぷー、とチャルメラの音が聞こえている。

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