寝子歴24XX年。
サイバー国家として発展を遂げたニッポンのカントー近海に浮かぶ島、ネコジマ。
そのなかでも、ネコジマジンジャを中心に発展したQ市街(キューシガイ)はレトロな趣と近未来技術が雑多に混在するネオ昭和地区。観光目的の客も多く、人気のスポットである。
「はっ、はっ、あのQちゃん、なんで僕を追いかけてくるのさー!」
響 タルトの黒いポニーテールが、路地を直角に折れて物陰に隠れる。
追ってきた空飛ぶ銀色の球体が、タルトに気づかず路地を直進して310(サンドー)商店街の方へ抜けていったのを見送って、タルトは大きなため息をついた。
見上げた空は路地の屋根に囲まれて狭まっている。ぷかぷかとQ市街の上空を回遊する蛍光グリーンの巨大魚は、みんなの暮らしを守る海洋生物クジラ型都市管理AIだ。先ほどの銀色の球体――通称『Qちゃん』は、都市管理AIの端末で、いわば警察官のようなものである。
「Qちゃんに追いかけられていたようですが、どうかなさいましたか?」
背後から話しかけられ、タルトはぎょっとして振り向いた。
話しかけてきたのは灰色髪の女性。
響 タルトは眼鏡型モニタを一瞬だけ外して、その人の実存を確認する。近頃は、モニタを通してだけ見えるヴァーチャルボディのAIと、リアルな体をもつ人間やヒューマノイドの区別がつきにくくなっているのだ。眼鏡をはずしても消えない人は、ちょっと安心する。ちなみに空のクジラは眼鏡がないと見えない。
「言っとくけど僕、何もしてないから」
「そうだろうと思っていました。最近Qちゃんの様子がおかしいのです。
わたくしはシオ・レイゼルオーク。どうぞシオとお呼びください。
よろしければご事情をお聞かせくださいな。お力になれるかもしれません」
「僕はタルト。都市伝説を調べに来たんだ。『幻のラーメン屋台』って知ってる?」
シオは返答までにしばらく間を置いた。
検索の結果を待っているのだとタルトにも分かった。
「
ネコジマQ市街のどこかに、幻のラーメン屋台が出没する。『リヤカー』という車に、赤い暖簾、ラーメンと書かれた提灯が目印。屋台の主は『黒猫』だとか」
「そうそう! そもそも
ラーメンっていうのは千年前に滅びた食べ物でさ、小麦で作った麺で、スープは大豆や魚で作ったショーユって調味料で味付けしてたんだって」
「小麦、大豆、魚……どれも貴重品ですね」
「いまは合成食材が当たり前だからねー」
ああだこうだと空中に開いた四角いウィンドウを見ながら話していると。
「ラーメンでござるか」
「懐かしい名でござるな」
シオの背後からふわりと白い毛の獣が二匹。
目を丸くするタルトにシオが説明する。
「寝子島神社の狛猫、『一之助』さんと『二右衛門』さんです。阿と口を開いている方が一之助さん、吽と口を閉じている方が二右衛門さんです。百年ほど前にヴァーチャルボディ化して暮らしていらっしゃるので、眼鏡をかけていればおしゃべりもできますよ」
「ラーメン、食したいものでござるな」
「シオ殿。その幻のラーメン屋台とやらを探すのをお手伝いするのはいかがであろう」
「ふふ、一之助さんと二右衛門さんはラーメンを食べたいだけですね?」
シオは二匹を振り返って、くすくすと笑みを漏らす。
「タルトさん。私たちにも手伝わせてください。店主が『黒猫』というのも気になりますし……このところのQちゃんの不調にも何か関係があるのかもしれませんから」
こんにちは。
ゲームマスターを務めさせていただきます笈地 行(おいち あん)です。
イラストキャンペーン『プレイバック2021+ゆかた』のプレゼントシナリオとなります。
シオ・レイゼルオーク さま、当選おめでとうございます。
このシナリオは「パラレル近未来モノ」です。
このシナリオにご参加のみなさんは、約千年後の寝子歴24XX年の世界に生きる
人間だったりロボットだったりAIだったりあやかしだったりします。
IFシナリオなので、設定や判定などはゆるゆるです。
近未来な雰囲気でやってみたいなーということや
オリジナルの近未来アイテム、
ただのロボットに見せかけて実は私の正体は……等
ご自由にアクションに書いてみてください。
なおマスターのSF知識もゆるゆるなので、
「すこしふしぎ」くらいなイメージでいてくださると助かります!
<このシナリオでできること>
★ 都市伝説『幻のラーメン屋台』を探す
この都市伝説を追うと、なぜか『Qちゃん』に追いかけられます。
★ 近未来なQ市街(旧市街)や310商店街(参道商店街)、寝子島神社で自由に過ごす。
ネコジマジンジャは千年前のままサイバー化せずに残っています。
★ ろっこん、あやかしの能力などはそのまま使えます。
(あやかしさん以外は電脳スキルという扱いになります)
<用語・キャラクターについて>
Q市街……………旧市街です。見た目はレトロですがサイバー化しており
上空のクジラさんによってシステム管理されています。
寝子島の旧市街の街並みにバーチャルな人々が歩いていたり、
レトロなネオンなどが点滅したりしています。
310商店街……参道商店街。ステーションからネコジマジンジャまで続くメインストリート。
昭和風なお店が軒を連ねており、食べ歩きなどもできます。
クジラさん………生活環境圏のあらゆるライフラインを管理制御維持する海洋生物クジラ型半自律AI
Qちゃん…………クジラさんの端末。街の管理に携わる警察官的役割。
システムのルールに合わない人や物を見つけると
疑似ビームを放って攻撃してくる。
当たると手持ちのシステムが壊れたり、
ロボットやAIなら一時的に動けなくなったりする。
一之助さん………神社の狛猫のバーチャル体(右)。阿と口を開いている方。心配性。
二右衛門さん……神社の狛猫のバーチャル体(左)。吽と口を閉じている方。しっかり者。
ご参加お待ちしております。