忘れられた大木の大蛇伝説！｜リアクション

忘れられた大木の大蛇伝説！

「この寺にも大蛇に関する文書はない。少なくとも、役に立つようなものは。それは間違いない」
　天野は断言する。それを聞いて、零、修、月の三人は落胆する。ここは天野が世話になっている寺。
「手がかりはなし、か」
　修が呟く、しかし、
「そうとは言ってない」
　天野は口の端を吊り上げた。ついてこい、と三人を促す。
　案内したのは、あのこの寺でもっとも古い墓の一つ。
「この墓はこの寺が創建された当時からあるらしい」
「すごい……なんて書いてあるんですか？」
　月が目を凝らして墓石表面の掠れた文字を読もうとしている。
「葬られてる人の名前と役職だ。重要なのはそっちじゃない。これを見ろ」
　天野の指さした箇所には、苔にまみれた中にかすかに、「村」という字が見える。
「村……これはこの人の出身地でござるか？　だが、なんて村なのか、かすれててよくわからんでござるな」
　零が呟く。
「かすれてるんじゃない、削り取られてるんだ」
「削り取られてる？」
　修は天野の方を振り向く。続けて質問を放つ。
「誰が、何のために？」
「わからん、だが、確かなのは、かつてあった村が何者かによって隠蔽されている」
「なるほど……この文字が消されたのはいつ頃だか、わかるか？」
「恐らくかなりの昔……もしかすると千年近く前かもしれませんね」
　答えたのは刻人だった。影のように現れた彼に天野、月、零、修は驚く。その後ろから続いて海、刀、鋭二もやってくる。
「隠された村。ヒントはいくつか」
　鋭二は古い墓を見分しながら、つぶやいた。刻人は天野たちに質問を投げる。
「……皆さん、今から千年前、九夜山のあたりで戦や飢饉が発生したって記録は見つけましたか？」
「戦や飢饉？　いや、まったくなかったはずだ」
　天野の返答に、修、零も同意する。
「ならば、恐らく答えは一つです」
　刀がその後を受ける。
「疫病……か」
　天野が首をかしげた。
「疫病？」
　海も怪訝な表情で、スケッチブックにペンを走らせる。
『はやりやまい？』
　鋭二がひと通り墓の見分を終え、話に加わる。
「うん、確かに、かつてこの辺りで奇妙な病気が蔓延したって記録はある。ただ、それは寝子島の町にまでは広がらなかったって……あぁ」
　刻人は頷く。
「そうです。山の中できっと疫病は根絶されたんです。恐らくは、村と村人たちと一緒に」
　月は刻人と鋭二に視線を投げる。
「じゃあ、あの大蛇は……」
　刻人は肩をすくめる。
「わかりません。あれが疫病をもたらしたものなのか、それとも疫病の犠牲者なのか。なぜあれが封じられたのか……」
「もしも、疫病をもたらしたものなら、無闇に接近するのは危険だ」
　鋭二がつぶやいた。
「誰かあの杉の方へ？」
「どうやらいるみたいだよ」
　もう一人の人物が現れる。晴海飛鳥。携帯電話の画面に視線を落としている。
「ねこったーに投稿がある。うちの高校の一年の真央ちゃんが仲間たちと山にいるって。それと、同じく一年の羽衣ちゃんもいるみたいね」
「あなたは？」
　刻人が問う。
「僕は晴海飛鳥。ばあちゃんが生前ここのお寺に通ってたって思いだして、来てみたらこれがビンゴだったみたいだね」
「おばあさまはなんと？」
「この伝承に触れてはいけないとさ」
「やはり、何かありそうだね……」
　刀が呟く。
「ともかく、山へ行ってみよう。もし大蛇が山へ戻っていたら、その真央さんと羽衣さんとやらが危険かもしれない」
　鋭二が提案する。そういうことになった。