忘れられた大木の大蛇伝説！｜リアクション

忘れられた大木の大蛇伝説！

　気がつけば彼らは、夜の闇の中にいた。
「突然夜に――？」
　それだけでなく、様子はさっきまでとは少しずつ違っている。乞龍洞は変わらずある。しかし、入り口にあったはずの柵は痕跡もない。さらに、化粧杉は影も形もない。
「まさか、これは……」
「あの蛇が見せる、千年前、の幻影ですかね？」
　月の光が洞窟に射し込んでいる。洞窟の入り口の前で男が一人、座り込んでいる。彼の表情は暗く沈んでいる。月の光が彼の鼻筋を銀色に照らしている。
　彼は懐から取り出した革袋を自分の前に置き、洞窟の奥へ声をかけた。持ってきたぞ、持ってきたぞ、と。それから革袋の口を少し開いてみせる。中には白粉が入っている。
「持ってきた、とはあの革袋のことでしょうか？　中身は白粉のように見えますが」
　刻人が呟く。その声は男には届かないようだった。現代人の一行にだけ届く。
　男はまた口を開いた。病が治れば、村にもすぐ戻れるさ。そしたら俺が嫁にもらってやる。
　それから男は再び、どっかと座り込み、視線を洞窟の暗闇へ据えたまま、待ち始めた。
　しかし、誰も暗闇から現れることはなかった。音もなく、声もなく、それでも彼は待ち続けた。
　月はやがて山の向こうへ沈む。代わりに鮮やかな朝焼けが空を照らす。その時、すでに男はそこにはいなかった。
　まるで蛇が脱皮したように、着物だけがそこに残されていた。
「一体、どこへ――」
　鋭二が首をひねる。
　少し経って、麓の方から村人たちがぞろぞろとやってきた。彼らは消えてしまった男と、その前に残された白粉、そして静まり返った洞窟を目にして、全てを悟ったようだった。
　それから杉の木が植えられることになったようだった。村人たちが穴を掘った時、そこへ一匹の小さな蛇が飛び込んだ。追い払おうとしても逃げないので、諦めて、残された白粉と一緒に埋めてしまうことにした。
「もしかして、あの小さな蛇が……」
　羽衣が言う。
「白粉と一緒に埋まってたから、白かったのかねぃ？」
　瓢が呟く。
「だから、化粧杉」
　修が言う。
　そこで黒い煙の夢は終わる。
　再び現代の寝子山へ戻る。
「とりあえず、蛇の正体はわかった。でも、まだ謎がたくさん残ってる」
　刀が言う。
「蛇は洞窟から現れたんじゃない、杉の地下にずっといたんだ。でも、それならあの洞窟には一体何が？」
　直行が言う。
「中に入ったけど、別に何もいなかったのだ！　ただ」
　真央が叫ぶ。
「ただ？」
　天野の問い。
「白装束があったね」
　草司が言う。
「あれを着てた人は一体何処に行ってしまったんだろうねぃ？」
　瓢は首をかしげる。
「蛇はずっとこの杉の下で、洞窟の入り口を見守ってたんでござろう……」
　零が言う。
「もしその白装束の着用者が洞窟から出てきたのなら、わかるはずだ」
　修が言い切る。
「もしかして……」
　悩んでいた羽衣が何かに気づいたように、顔を上げる。
「みんな、ついてきて！」

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