ハッピーバースデー！　７月☆｜リアクション

ハッピーバースデー！　７月☆

●Jul.17　大好きな先生からのお祝い

　倉前七瀬は、離れて暮らす両親から贈られた分厚い本の山を手に取り、じっくり見る。
（ふむん、両親から本が贈られてくると自分の誕生日を自覚しますね……）
　むしろこれがないと、自分でも誕生日であることを忘れてしまう。
　誕生日にはなんやかんやで毎年、楽しいことが起きているので、今日も何か楽しいことがあるかもしれない。
「よし、せっかくやし、おでかけしましょう」
　贈られた分厚い本を手にし、ふんふん♪　と鼻歌まじりにでかけることにした。

（今日は僕の誕生日やから、なんかワッと嬉しくなることが起きんもんですかねぇ……）
　そんなことを考えていると、寝子高2年の時の担任だったウォルター・Bを見かけたので声をかけた。
「先生！　奇遇ですねぇ」
　やっぱり誕生日のおでかけはよかことが起きます、と七瀬は上機嫌。
「倉前か。久しぶりだねぇ。相変わらず元気そうで何より」
　元教え子が楽しそうな表情をしているので、何かいいことがあったのか訊ねた。
「そうそう、僕、誕生日なんですよ。やけんって、先生に何かねだるとかはないですよ？」
　本当はお祝いしてもらいたいが、自分からねだるのは間違っている気がする。
「控えめなんだねぇ、倉前は。誕生日なんだから、お祝いはしないと、だ」
　急だから手の込んだことはできないけど、と苦笑するウォルター先生を見て、悪いことしたという気持ちも。
　だが、せっかくの厚意なので甘えることにした。
「……うーん、ひとつ、お願いがあるには……あるとですが……」
　お願いを聞いてもらえるかどうか不安だったが、七瀬は勇気を出して、あることをお願いした。
「先生、うちのこと『七瀬』って、名前で呼んでくれませんか？」
　ウォルター先生を真剣な眼差しで見つめ、そうお願いする。
　そんなことでいいのか？　と思われるかもしれないし、躊躇ってしまうかもしれない。
　断られるかもしれない、といった考えが、七瀬の頭の中に。
　言ってしまった……という後悔もあったが、口にしてしまったことは取り消せない。
「僕、名前で呼んでもらいたいけん。他の人のことも名前で呼んどるんですけど、あまり僕のこと名前で呼んでくれる人おらんとですよ」
　ウォルター先生は何も言わず、話を続ける七瀬をじっと見ている。
「だから、名前で呼んでくれたら嬉しいなぁ……なんて。あ、駄目やったらよかです。忘れてください！」
　駄目だったらどうしよう……と落ち込む七瀬の頭を軽くポンと叩き、ウォルター先生は「顔を上げて」と落ち着かせる。
「君のこと、名前で呼べばいいんだねぇ」
　お安い御用だよ、と七瀬の顔をじっと見て一言。

「誕生日おめでとう、七瀬。しばらく見ないうちに大人になったねぇ」

　初めて見た時のあどけない笑顔。あどけない口調。
　あの頃と少しも変わらないウォルター先生は、七瀬にお祝いの言葉を。
「うちのわがまま聞いてくれてありがとう先生……嬉しか……」
　名前で呼んでもらえるとは思わなかったので、七瀬はつい、泣いてしまった。
「おめでたい日に泣かない。あ、これ……」
　急だから、こんなものしかあげられないけど……とウォルター先生がくれたのは押し花の栞だった。
　七瀬が本を持っているので、使うのにちょうどいいと思ってプレゼントした。
　押し花に使われている花はヒルガオ。7月17日の誕生花で花言葉は「絆」「友達のよしみ」など。
「あ、ありがとうございます。大切にします」
　栞を大事そうに持ちながら、七瀬は微笑んでウォルター先生にお礼を言った。

　七瀬19歳の誕生日は、最高の1日になった。