暗夜雨道　～寝子島辻斬り物語～｜リアクション

暗夜雨道　～寝子島辻斬り物語～

・そして、落神神社

　櫻、清真、零の三人は、落神神社にかろうじて着く事が出来た。
　すでにだいぶ息が上がっている。
　そして、到着したと当時に、落ちている標識と、その奥にたたずむ玄を発見する。
「すでにここで一戦あったようじゃな」
　所々えぐれた地面を見ながら、零が言う。
「おいおい、今度は時代劇の世界か？」
　焚いてあるたいまつを見て、清真が言う。
「そうかもしれないな」
　櫻が半ば、あきらめとともに肯定する。
　その櫻もどこか心あらずといった状態に近い。
　きっと疲れているのだろう。
　零も清真も勝手にそう思っている。
「まぁ、行くか。いつまでも隠れていても終わらないぜ」
　そう言って、清真が立ち上がると竹刀を持ち直す。
「とりあえず、固まるな、散開じゃ。散開して戦う。互いの間合いに入るのは厳禁じゃぞ」
　零が念押しするように言う。
　複数で戦うとき、互いの間合いに入ると下手すれば同士討ちになりかねない。
　竹刀ならいいが、模造刀に刀である。
「では、私が正面から行こう」
　そう言って、櫻が飛び出す。
　櫻が飛び出すと、玄の前に影が再び現れる。
　ヤスベェと声が聞こえたが、櫻はすでに集中に入っている。
（影を切り続ける毎に切った時の感覚が積み重なる。なぜだ。アレは人ではないはずなのに！）
　ヤスベェを囲むように零と清真が回り込み、櫻からみて逆三角を形成する。
　その逆三角の真ん中にヤスベェがおり、逆三角の頂点が櫻である。
「ゆくぞ！」
　最初に斬りかかったのは、零である。
　疾風のような一撃がヤスベェに襲いかかる。
　これを持って、ヤスベェを死地に動かすのが零の狙いであったが、そうは簡単にいかない。
　その場で舞うように、ヤスベェは大太刀を弾く。
「なんて、力じゃ！」
「この服は赤穂浪士だっけか？　生憎俺は忠臣蔵をちゃんと見たことねーから、よくわからんが、敵は倒すぜ！」
　その隙を見計らって、竹刀をふるう。
　しかし、これも返す刀で防がれる。
「今じゃ！」
　そう言って、零が櫻に声を掛けるが……。
「えっ……あっ？」
　櫻が動いたときには、すでに機会を逃していた。
「す、すまない」
　謝る櫻に、零はよい、と返す。
　櫻の内心に、重い何かがあるのは、今ので何となく分かったが、今ここでそれを乗り越えねば勝利は無いと考えたからだ。
「しばし抑えるのじゃ！」
「承知だ！」
　零と清真が再び、隙をうみ出すために斬りかかる。
　先ほどのようには行かせてはくれない故に、苦戦する。
　肝心の、櫻は思考の迷路にはまっていた。
（違う。私のろっこんは誰かを殺す為のものじゃない……誰かを守る為に振るうものだ）
（本当か……本当にそうなのか……？　それはただの言い訳ではないのか……？）
　そう考えている間にも状況は進んでいく。
「おい、考えている暇があったら目の前の事を何とかしやがれ！　考えるのはその後で良いだろ！」
「今、わらわが必要なのはおぬしの剣じゃ！　そこには未熟も何も無いのじゃ！　ただ一心に振るえばよいのじゃ！」
　ヤスベェを引きつけながら、零と清真が叫ぶ。
　特に、清真はこれまでこういった実戦を経験する事は無かったらしい。
　道中、そんな事をぼやいていたのに思い当たった。
　すとん、と櫻の中で何かが落ちた気がした。
　が、叫んだため呼吸が乱れ、隙が生まれた。
　その隙を見逃すヤスベェではなかった。
　返す刀が、清真に吸い込まれる。
「この一件が片付いたら、忠臣蔵のDVDでも借りてみるか！」
「……そうだな」
　しかし、ヤスベェの一撃は零によって体を崩される。
　そこに櫻が、一歩、踏み込んだ。

　刹那！

　白閃が光り、雨がはじけた。
　見事、ヤスベェの影は消滅し、同時に玄は倒れ伏したのであった。
「……見事」
　零はその光景に、櫻の成長を感じ取っていた。
　それが大きいにせよ小さいにせよ、武人として、こういった人との巡り会いは純粋に喜ばしかった。
　それはまた、異世界から切り離された清真にむけても同様だった。

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