霊界紀行～迷いの森～｜リアクション

霊界紀行～迷いの森～

３．

　一行は二手に別れて行動することにした。
「できる限り戦いは避けたいが、万が一戦闘になった場合も考えて鈴の音の方には僕が行こう」
　もっとも危険なあやかしである殺戮人形の方には、腕に自信のあるサキリを先頭に、夢乃とマリエッタが同行することにした。
　他方、女の子の方にはアシュリーを先頭に、冬華と真白が向かうことになった。まだあやかしから自分で逃げるだけの知識を持たない妹の方の無事を速やかに確保するためだ。
　女の子が指差した方に足早に向かう仲間達を見送ると、サキリもまた夢乃とマリエッタを先導しながら気配を殺して歩きだした。
　程無くして、サキリは鈴の音の発生源――殺戮人形の姿を発見した。
　と、同時にサキリは、その人形が地面についた子供の足あとと思しきものを辿っていることに気づく。
　どうやら鈴の音を聞いて逃げる男の子の足音を追っているようだ。
「よし。僕がやつの注意を引きつけて遠くへ引き離しておくから、二人はその隙に子供を」
　特に気負った様子もなく、サキリは二人の仲間を振り返りながら、ごく自然な口調でそう言った。
「サキリさん。無理はしないでくださいね」
「そうよ。誰かが犠牲になって子供が助かっても、きっとあのご両親は喜ばないわ」
　夢乃とマリエッタが声を落としつつ、サキリの背中に向かって言う。
「ありがとう。大丈夫。今回の任務は子供達の無事が優先だ。あくまで陽動と囮に徹するから、無茶はしないよ。それよりも男の子の方を頼む」
　小さく笑うと、サキリはハンドサインで二人に「行け」と促すと同時に、わざと大きな音を立てながら人形の前に躍り出た。
「！」
　突然目の前に現れたサキリに、人形がチリンと鈴の音を立てて、作り物の目を見開いたその刹那――。
「……っ」
　ぞわり、と背筋を駆け上がるような強い殺気がサキリを襲った。
　次の瞬間、人形はフッと姿を消す。
　刹那、背後に肝が潰れるような殺意。
「……っ！？」
　ほとんど咄嗟に地面に転がり込むようにして攻撃をかわしながら、素早く振り返って身構える。
　迷彩に被っていた緑の布は人形の繰り出した刃に千々に引き裂かれていたが、幸いサキリ自身は無傷で済んだ。
　とはいえ、
「……どうやら一筋縄ではいかなそうだな」
『ク、ケケケケケケケ！』
　刹那、恐ろしい笑い声とともに突進して来る人形に、サキリは愛用のマチェットを二刀流で構える。
　凄まじい速度で迫った殺戮人形の白刃がサキリに真っ直ぐ振り下ろされる。
　一撃、二撃と流れるように放たれる斬撃をサキリは最低限の動きで受け流した。
　しかし、その一撃の一つ一つは人形の小さな身体から放たれたものとは思えないほどに重く、速い。
「……ッ」
　上手く力を捌き損ねて、サキリが武器を大きく弾かれた瞬間――人形の赤い口元がニヤリと歪む。
『ク、ケケケケケケケ！』
　だが、刃が肌を捉えるよりも早く、サキリはろっこん「斬空赤刃」を発動して人形の死角に瞬間移動した。
『クケ？』
　肉を切り裂くはずが空を裂くだけに終わった刃の感触に、人形が首を傾げる。
　サキリはその様子を木陰から息を殺しながら窺った。
　人形はきょろきょろとあたりを見まわしながら、なかなかサキリを諦めようとしない。
　人形の移動速度を考えると、迂闊に戦闘が終わったと判断するのは危険に思えた。
（やれやれ。そう簡単には戻れそうにないな。子供達の安否は他のみんなに託すしかないか）
　少なくとも、ここでもっとも危険な殺戮人形を引きつけておくことは、大きく救出成功に資することは間違いない。
　かくして、サキリは物音を立てないように静かに息を殺しながら、人形が自分を諦めるのを待ち、そのまま温泉に直帰することにした。

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