霊界紀行～迷いの森～｜リアクション

霊界紀行～迷いの森～

１．

　迷いの森には深い霧が立ちこめていた。
　静寂と妖しさが支配する暗い森の中を6人の勇敢な若者達の足音が進んでいく。
　彼らの目的は一つ――森に迷い込んだ幼い兄弟を無事に両親のもとに連れ帰ることだった。
　耳を澄ませば聞こえてくる音がある。
　さらり、さらり……と砂の粒をさらうような音だ。
「冬華ちゃん、何か変な音がするよ」
　白真白は、白く長い髪をかきあげ、耳をそばだてるようにして言う。
「あら、本当ですね。これは……茂男さんが仰っていた『あずきあらい』の音でしょうか？」
　北条冬華も真白にならうようにウェーブのかかった白髪をかきあげて耳を澄ませる。
　思い出すのは我が子を思って声を詰まらせる――人の良さそうな妖怪研究家の男性の姿だ。
「行ってみるか。あずきあらいは人に害がないらしいし。子供達を無事に助けるためにも、迷っている時間はない」
　アシュリー・アンダーソンは、暗めの金髪の下に見え隠れする青い瞳を如才なく光らせつつ、静かな声で言った。
「そうね。話が通じるようなら、積極的に情報収集していきましょう」
　緑色の瞳を眠たげに瞬かせながら応じたのは、マリエッタ・ラシュリエだ。彼女は寝子島世界の自宅の湯舟でうとうとしているうちに霊界に迷い込んだために、まだ少し眠いのだった。
「危険なあやかしの対処は僕がする。戦闘能力のない者は無理をせずに下がっていてほしい」
　サキリ・デイジーカッターは、同行者を守るように先頭を歩きながら、小声で注意を促す。わずかでも迷彩になればと纏う緑の布や、如才なく子供達の足跡を探す様子は彼が荒事に慣れていることを暗に示していた。
「サキリさん、頼もしいです。私も足を引っ張らないように気をつけますね」
　ふわりと笑いつつ、過度な緊張感を和らげるように微笑むのは花咲夢乃だ。アイドルをこよなく愛する彼女は憧れのアイドルのように周囲の空気に気を配った行動ができるように心がけていた。
　やがて、一行が足を進めていくうちに、だんだんとあずきを洗う音が近づいてくるのがわかった。
　と、そのとき、先頭を歩いていたサキリの足が止まった。
　仲間を庇うように腕を広げるサキリの肩越しに、背中を丸めて屈みこむ老人の姿が見える。
『おや？　今日はずいぶんと人間のお客さんが多いねぇ』
　こちらを振り返りもせずに言った、あずきを洗う老人の背中に、一行は思わずというふうに顔を見合わせた。

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