素材を求めて｜リアクション

素材を求めて

　放課後になると水上桜は逸早く教室を飛び出した。どこにも立ち寄らず、桜花寮の自室に戻る。急いで私服に着替えた。ショルダーバッグを肩に引っ掛けた姿で財布の中身を確かめる。
「これなら」
　焦る気持ちが和らいで微かな笑みを浮かべた。

　迷いのない足取りでシーサイドタウンの中心部へ向かう。点滅を始める歩行者信号は走って渡った。
　先をゆく人々を追い抜き、桜は店舗の前で立ち止まる。下りたシャッターを見て、なんで、と不満を漏らす。一枚の張り紙には『臨時休業』と書かれていた。
　一旦は引き返そうとした。思い直し、アクセサリーの素材を求めた。細い脇道や路地裏を隈なく探す。
　民家の多いところでは、ないよね、と口にしながらも速足で周囲を見て回った。
　小一時間、経過した。桜は道の真ん中で立ち尽くす。
「……ここはどこよ？」
　街並みが一変した。半透明の人物が行き交う。顔に生気はなく、電信柱を通り抜けてゆく。
　厄介なことに巻き込まれたと自覚した。小さな身体に怒りが溜まり、爆発寸前のところで踏み止まった。長い息を吐いて気分を落ち着かせる。
「まずは情報ね」
　自分に言い含めて歩き出す。
「あれは」
　別々の位置で五人が立ち止まって話をしている。相手は裁縫道具で宙に浮いて必死の説得を試みる。
　桜も例外ではない。飛んできた針山に声を掛けられた。
「お嬢さん、少し時間をいただけないでしょうか」
「別にいいけど」
「ありがとうございます。仕立屋で必要な布の在庫が無くなりまして。素材を集めていただける方を探しています。引き受けていただけないでしょうか」
　針山は猫撫で声で近づいてきた。桜は渋い顔で言った。
「危ないこと？」
　聞くと針山は身体を左右に激しく振った。安全を何回も口にして素材が採取できる場所を矢継ぎ早に挙げた。
「納得していただけたでしょうか」
「ここが霊界で、そちらの事情もわかったわ。私は海岸で貝殻を探してくる」
「ありがとうございます！」
　桜は軽く手を振ると教えられた海岸へと向かう。