素材を求めて｜リアクション

素材を求めて

　仕立屋の奥の部屋に全員が集まった。各々がなんとも言えない表情で運ばれてきた鍋を見つめる。
「今日は本当に助かったよ。腹が減っただろう。たくさん食べとくれよ」
　逢見いとがお椀にキノコ汁をたっぷりと注ぐ。
　全員に行き渡ると手を合わせた。声を揃えて、いただきます、と言った。直後に他の者の様子を窺うような目となった。
　手前に置かれたお椀から香り高い湯気が上がる。色は青紫で実に毒々しい。
「いただくのですー」
　その一言でゼロに注目が集まる。お椀を持ち、息を吹き掛ける。そっと箸で口の中に入れた。
「気持ちいい味なのですー」
「え、美味しいじゃなくて？」
　月原想花はお椀を持ち上げる。鼻を突っ込むようにして匂いを嗅いだ。
「匂いはいいんだけど……」
　曇る眼鏡で適当に口に含む。
「あれ、美味しい」
「当たり前だよ。本当に失礼な娘だねぇ」
　いとは言いながらも誇らしげな顔付きとなった。
　楡宮遠海はお椀を掴んだ。顔の前に持ってくるとひたすら息を吹き掛ける。
「これなら、アッツ！　でも、美味しい！」
　格闘技の試合さながら顔を歪めながら食べた。
「猫舌なのかい」
　いとは苦笑して言った。
「はい、まあ、アッツ！」
　迷子の影響もあって遠海は苦労しながらも食べ進めた。
　隣で静かに食べていた水上桜は改めてお椀の中身に目を落とす。
「見た目は悪いけど、味は悪くないわね」
「ふわふわ、ぷかぷかなのですー。光り輝く曼荼羅が綺麗なのですー。あまりに素敵なのでゼロは踊るのですー」
　言葉通り、立ち上がったゼロは身体を左右に振りながら両手を揃えて上げた。盆踊りのような姿で机の周りを歩く。調子が出てきたのか。歌を披露した。かと思えば唐突に笑い出す。
　想花は虚ろな顔で揺れ始めた。
「なんか、とても、眠いんだけど……」
　同様に桜の瞼が閉じてきた。
「本当に眠気……」
「ゼロも眠いのです。掘り炬燵で眠るのですー」
　元のところに潜り込んだゼロはぱたりと横になった。
「私はまだ、食べている、途中なのに。どうして、こんなに眠いの、かな……」
　遠海は口を動かしながら目を閉じた。
　黙って見ていた漫歩は自身のお椀を眺める。
「やっぱり今回も、このパターンかよ」
　空腹には勝てず、思い切って掻っ込んだ。

「ここは？」
　想花は図書室にいた。窓辺の席で転寝したようだった。
　遠海は自室のベッドに倒れ込んでいた。顔を上げて、あれ？　と寝ぼけたような声を出した。
　桜は街中に突っ立っていた。通行人の一人に軽く押されて我に返る。
「キノコ鍋は……」
　肩に掛けたショルダーバッグを開く。内側のポケットに収めた貝を目にした。宝物を見つけたような笑みが浮かぶ。
「ペンダントトップを作ろうかな」
　弾む足取りで桜花寮に戻っていった。

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：黒羽カラス
ファンレターはマスターページから！

　霊界の素材集めは皆さんのおかげで捗りました。
　全ての素材を手に入れられていとさんも大いに満足したことでしょう。
　最後は皆さんで掘り炬燵に入って鍋を囲みました。
　何やら怪しいキノコ鍋ではありましたが、香りは上々。味も良いらしく評判の内に、
　と言いますか。踊り出したり、歌ったり、昏倒するように眠ったりしました。
　味と香りのおかげで良い思い出になるはずです！　たぶんですが！

　最後にご参加、ありがとうございました。

↑ページトップに戻る