【星幽塔】第一階層　黄金色の麦畑を、何度でも｜リアクション

【星幽塔】第一階層　黄金色の麦畑を、何度でも

「えっ？　平屋で天井裏から足音が聞こえる？」
「うん、誰も居ないはずなのにね。後、貰ったお水を飲もうとしたら、コップに虫がびっしり浮いてたこともある。びっくりして落としたら、中身は水だけだった」
「うわぁ……」
　想花と合流したラッセルと美野梨は、彼女の恐怖体験を聞いて眉をひそめた。
　――やはりこの村には何かあるのだ、と。
「そりゃあ災難だったな。えーと、俺の聞き込みの結果を共有したいんだけど、いいか？」
　二人の頷きを見て、ラッセルは続けた。村長の話では、イナゴ様の奉納神事は意図的にぼかされていること。アレシスの繁栄は、彼の目から見ても不自然であること。
「んで、神野はどうだった？　その……手記の内容とか」
「うん。私も、神事の詳細は意図的に避けていると思う。もしかしたら……人間を生け贄にしていたのかも」
「ひぇっ！？」
「おいおい、ぞっとしねーな」
　美野梨の言葉に、想花がびくりと震え、ラッセルは絶句する。
「絶望的な冬越しで『誰かに立ってもらうしない』と書いてあって、立った人の家は元村長の仲人で、家族ごと移住したことになっているの。その後畑の収量は上がっているわ」
「それって……家族が死んだ村ではとても暮らしていけないから？」
「そうだな。後は秘密を守る為ってのも、あるかもしれねぇ」
　三人は手分けをして、さらに手がかりを集めることにした。

◆

　女性達の井戸端会議担当となった美野梨と想花は、硬い表情で広場へ向かった。
「桜井くんは『ちょっとティムにナイフの話聞いてくる！　女同士は頼むな！』って言ってたけど、私、井戸端会議はちょっと苦手……」
「ぼくも、あんまり……」
　二人は足取り重く、井戸の周りでさざめく女性達に目を向けるが、先客がいることに気づいた。
「へぇ、そうなんだ。ティムはチーズ入りのパンが大好物なのか」
「そうなのよー、ティオレさん。口いっぱいにほおばる顔が可愛くてねー、親に内緒でついあげたくなっちゃうのよねぇ」
　エプロン姿の女性から、ティムのことを聞き出していたのは、青い目にポニーテールの女性だ。
「分かるわぁ、男の子って可愛いよねぇ。あたしの息子は大きくなって家を出ちゃってさぁ、手紙一つも寄越さないのよ」
「家を出ると言えばさエリー、あんたんとこの末っ子、ようやく嫁入りだって？」
「ようやくって何よ、ようやくって。レクスとミーシャと同じくらいの進捗よ。手を繋ぐまではあたしだってじれったかったわ」
　ぽんぽん飛び出す会話の応酬に、美野梨はくらくらしてきた。心なしか、青い目の女性も頬が引きつっている気がする。
「お嫁といえば、今の村長さんはあまり仲人ってやらないわね。あたしの婆ちゃんの頃は結構やってたけど……何だっけ、リサ、あんたの親戚でいたじゃない、ネイファって人」
「あぁ、いたいた。会ったことないけど、確かお祖母ちゃんのいとこだったわ。お嫁に行ってから音信不通だって、お祖母ちゃん寂しがってた」
「あ、あの！　その、ネイファって人のこと、教えてもらえませんか！」
　ネイファという名にどきっとした美野梨は、勇気を出して話しかけた。
「あぁ、あんたティムの所にいる、城下町から来た人だろ？　そっかそっか、お年頃だもんねぇ。いい人探してるの？」
「そ、そうなんです！」
　誤解を幸いに、聞き出したところによると。
　ネイファは当時１７歳ほどの女性で、病気の両親の為に朝から晩まで働いていたという。そんな折、元村長がいい医者の嫁ぎ先を見つけてくれて感謝していたという話だった。
「なるほどね！　元村長は仲人名人だったのか。いい話をありがとう。私らは失礼するわ。じゃあね！」
　リサという女性に返事をしたのはなぜか、ティオレと呼ばれていた青い目の女性だ。彼女は美野梨と想花をせかして、その場を後にした。
　そして、人目が無いところに着いてからこう言ったのだ。
「いや、いきなりすまないね。あんた達も、この村から脱出するために、情報を集めているクチだろ？」