【星幽塔】第一階層　黄金色の麦畑を、何度でも｜リアクション

【星幽塔】第一階層　黄金色の麦畑を、何度でも

　廃坑から出てきたラッセルとティオレが見たものは、黒いもやに包まれて、空を飛んでくるティムの姿だ。
「なっ……あれ、ティムか？　周りのはイナゴ様？」
「そうみたいだね！」
　ティオレは星の力を宿すロングソードを構えるも、つぅ、と汗が伝う。
「お前タチ……ココを終わらせに来たモノカ？」
　ティムの声が枯れてひび割れたものに変わった。
「あんた、もしかしてイナゴ様か？」
「シカリ。我々はティムの望みで繰り返しを維持してオル」
「ちょっと待った。あんたが望みを叶え続けたら、ティムはどうなるのさ？」
「シヌであろうな。だが、それも望みのウチだ。自らのイノチを賭してでも、永劫を希ったのダカラ」
「そう、だ……」
　ティムの赤い目が明滅し、声が元に戻る。
「城下町は僕のおうちじゃない……おうちに帰る……どこにも行かない！」
　轟音を立てて、黒いもやが一瞬前まで２人が立っていた場所に激突する。
「ティム、安らぐかもしれねーけど現実に帰るんだ！　お前の父ちゃんと母ちゃんは、お前まで失ったらどうしようって、泣いて心配してるんだぞ！」
　そこで、走ってきた美野梨と想花が到着し、転んだティオレを助け起こす。
「ティム、あんたが人の涙を顧みない人間だとは思わなかったよ」
　ティオレの呆れたような言葉。
「ティム君、お兄さんはあなたを大切に思っているわ。でなきゃナイフの柄に名前を彫るわけないじゃない！」
「レクス兄ちゃん……みんな……ごめんなさい」
　ティムがびくりと震えると、空にヒビが入る。彼は黒いもやから解放され、地面に降り立った。
「イナゴ様、今までありがとう。ずっとアレシスにいたいなんて言ってごめんなさい。僕、父ちゃんと母ちゃんのとこに戻りたい」
　ティムの言葉と一緒に、黒いもや――イナゴの群れはもぞもぞと蠢いていたかと思うと、次は想花を包み込んだ。
「ちょ、ぼくなの！？」
　程なくして、目を赤く燃え立たせた想花の口が動く。
「ティム……そなたまで、ワレワレを忘れてしまうのか……神は、忘れ去られると……アルことはカナワヌ……忘れ、ラレタクナイ……」
　一匹、また一匹とイナゴは力を失い、地面に落ちて動かなくなってゆく。
　ラッセルは叫んだ。
「イナゴ様！　長い間奉らずにすみませんでした！　俺らが代表して、奉り続けると約束します！　ですからどうか、俺らをお帰し下さい！」
　ラッセルに続いてティムも声を張り上げた。
「イナゴ様！　新しい名前をつけたらいいと思います。そうしたら、忘れないから！　僕と一緒に来て！」
「ヒトの子らよ……ソノ言葉、ユメユメ忘れるでないぞ……」
　大分薄くなった黒いもやは、ティムの差し出したイナゴ様の木彫りに飛び込むようにして、いなくなった。
「え、何？　ぼく助かったの？」
　しばらくして想花も目を覚まし、ほっと安堵の息をつく。
「あ、レクス兄ちゃん……ミーシャ姉ちゃん……」
　５人の元へ、村の人間が次々と歩いてきて、挨拶しては去って行く。その中にレクスとミーシャの２人もいた。
「僕……２人が天国に行っても、がんばるよ……」
　涙を堪えて歯を食いしばるティムを、２人は強く抱きしめている。彼らは５人に対してお辞儀をすると、手を繋いで光の中へ消えていった。

◆

　目映い光が消えた後は、元の青空。
　風に吹かれる青草に、うち捨てられた家屋。
　廃墟に戻ってきたのだ。
「ふーう、やっと終わったねぇ」
　背伸びをするティオレの横で、美野梨はティムの手を取ってほほえみかけた。
「イナゴ様に贈る名前って、どういう名前なの？」
「アウルム。昔、ミーシャ姉ちゃんが読んでくれた本にあったんだ。黄金色の素敵な宝物の名前なの」
「へぇ、いいじゃん！　んじゃま、城下町に帰るとすっか。もう腹ぺこぺこだぜ」
「うん、私も帰りたい……」
　ラッセルは想花を助け起こし、一緒に歩き出す。見上げた空を、一筋の雲が流れていった。

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あとがき

担当マスター：陣杏里
ファンレターはマスターページから！

皆様こんにちは、『推理小説は犯人を推理しないで読むタイプ』の陣杏里です。

廃墟写真集がステキだったので、気合い入れて謎を作ってみるか！
……と思って作ったシナリオですが、すごく長くなってしまいました……。
夜遅くに後書きを書くのはいつぶりでしょうか。

プロット段階で想定していた、物騒な選択肢を選ぶＰＣさんが１人もいらっしゃらなかったので、
平和なエンディングとあいなりました。
皆様ノリノリのアクションをどうもありがとうございました。

ご参加いただいた方、お読みくださった方、どうもありがとうございました。
失礼します。

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